5月7日、フランスで大統領選挙の決選投票が行われ、エマニュエル・マクロン氏が当選、次期大統領となることが決まった。マリーヌ・ルペン氏との決選投票では、欧州連合(EU)からの離脱か残留かが最大の争点だったが、もう1つあまり知られていない争点があった。それは「源泉徴収制度」の導入だ。マクロン氏は源泉徴収制度の導入に賛成、ルペン氏は反対だった。マクロン氏の当選によって、2018年1月からの源泉徴収制度の導入は、予定どおりに行われると見込まれる。
源泉徴収制度はわが国ではすでに定着している。われわれが得る、給料や年金給付に対する所得税は、受け取る前に天引きされている。戦時中の1940年の税制改正で導入され、1947年の税制改正で現在のような仕組みになって、半世紀以上経っている。
そもそもフランスには源泉徴収制度がない。原則として所得税の納税者は、自分の所得を税務署に申告して納税する仕組みだ。フランスは欧州でも源泉徴収制度を導入していない希有な国だった。フランソワ・オランド大統領は行政手続きの簡素化の一環として、所得税の源泉徴収化を実施に移し、2018年からの導入を決めていた。
源泉徴収にルペンは反対、マクロンは賛成だった
とはいえ依然として、源泉徴収制度導入の反対論はくすぶる。特に企業側からの反対だ。背景には、フランスの所得税が日本のように個人単位での課税でなく、世帯単位での課税であることも作用している。つまり、所得税をいくら納めればよいかは、自分の所得のみに基づいて決まる個人単位での課税ではなく、配偶者も含めた世帯でいくら所得を稼いでいたかに基づいて決まる世帯単位での課税を、フランスでは採用している。
個人単位での課税である日本では、控除を受けるために家族構成を勤務先に知らせることはあっても、配偶者が正確にいくら稼いでいるか、相続や離婚をしたときに不動産収入や金融所得をどう分配したかなど、勤務先に知らせる必要は一切ない。もし、源泉徴収を実施しているわが国で、世帯単位での課税を導入しようとすれば、まさに配偶者がいくら稼いでいるかを正確に知らせなければならないし、相続や離婚をした場合の対応も源泉徴収義務がある勤務先に知らせなければならないだろう。
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