仏マクロン新大統領の前途を左右するもの 議会多数派とのねじれ、ドイツとの交渉…

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マクロン新大統領も、自身が立ち上げた政治運動「前進!」("En Marche!" アン・マルシェ)から独自候補を擁立し、過半数の獲得を目指すが、コアビタシオンを避けられるのか、はっきりしない。「前進!」は始動から、ようやく1年が経過したばかり。国民議会の独自候補の選出に動きだしたのも今年1月で、これまでに公表された候補者は14名に過ぎない。マクロン氏の人気や、コアビタシオンを避けるべきとの有権者の判断から、「前進!」の候補者が一定の支持を集める可能性はあるが、多数派を占めるまでの基盤を築くには、とにかく時間が足りない。

自陣営で過半数が獲得できないとなれば、マクロン大統領の政権運営には、他党との協力が不可欠になる。国民議会選挙では右派の共和党が票を伸ばすことになりそうだ。共和党は大統領選挙では、ルペン氏の勝利を阻止するためマクロン支持に回ったが、大統領とどのような関係を築くのか、現時点では見極め切れない。

二大政党や議員からの支持は取り付けることが不可欠とは言え、マクロン大統領の最初のつまずきとなるおそれもある。既存の政治との違いが曖昧になり、左派でも右派でもない中道という「前進!」の立ち位置を保つことが難しくなるからだ。

マクロン氏に追い風は吹くか

マクロン政権は、サルコジ前政権、オランド現政権よりも議会の基盤が弱いまま船出することになるだろう。果たしてテロとの戦い、成長と雇用、格差の是正、さらにユーロ圏におけるフランスのプレゼンスの向上といった難題に成果を挙げることができるのだろうか。

大統領選挙戦では、右派の統一候補フィヨン氏のスキャンダル、社会党の分裂という二大政党の敵失がマクロン氏への追い風となった。これから5年にわたる政権運営にも、追い風が吹く可能性はある。

さいわい足もとの世界経済は堅調で、輸出環境の改善は期待できる。また、マクロン大統領が失敗すれば、5年後には、反EU、反グローバリズムを掲げるフランス大統領の誕生が避けられなくなるとの危機意識が、追い風になって、国民議会選挙で地滑り的な勝利を収めるかもしれない。今年秋のドイツの総選挙を経て誕生する政権が、3期にわたるメルケル政権よりも、フランスが提案するユーロ制度改革に柔軟な姿勢を示すかもしれない。

マクロン氏は希望と楽観を訴えて大統領の座を勝ち取った。悲観一辺倒にならずに、政権の行方を見守りたい。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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