しかし、財政の大盤振る舞いはできない。フランスの2016年の財政赤字は名目GDP(国内総生産)比で3.4%。この数値が3%を超えると、EUのルールで財政赤字が過剰とされる。各国の財政健全化が一定の成果を挙げた結果、3%を超えているのはユーロ参加国ではスペインとフランスの2カ国だけになってしまった。
フランスの政府債務残高の名目GDP比は96%に達しているが、まだピークアウトしていない。ユーロ導入の準備期から2000年代半ばまでは、その比率はドイツとほぼ同水準で推移してきた。しかし、ここ5年間にドイツは大幅にその比率が低下し、2016年には68.3%となっている。ドイツとフランスの差は大きく開いてしまった。
財政規律に重きを置きすぎる政策は、全体として労働市場に余剰が残るユーロ圏にとって望ましくはないが、マクロン大統領は、歳出の削減を中心とする財政健全化への姿勢を示す必要がある。
親EUのマクロン氏は、統合を深めることによるユーロ制度改革にも意欲的だ。大統領選挙の公約には、ユーロ圏予算の創設とその予算執行に責任を負うユーロ圏財務相ポストの創設を提案することも盛り込まれている。ユーロ圏内の格差を是正し、全体のバランスを改善するために必要な改革だが、財政規律を形骸化することや一方的な財政移転が定着することを嫌うドイツは、これに消極的立場を採ってきた。ドイツに財政面での譲歩を求めるためにも、まずは、フランスが財政規律を遵守する姿勢を示さなければならない。
試金石となる国民議会選挙
6月に控える国民議会(下院)選挙は、マクロン新大統領の課題の解決力を占う試金石として注目される。
国民議会の任期は5年。小選挙区制で577の議席を争う。6月11日の第1回投票で、有効票の過半数かつ選挙人名簿登録者数の25%以上を獲得する候補者がいない場合、得票数が有権者の12.5%以上だった候補者による決選投票が、18日に行われる。
フランスでは、大統領の所属政党と国民議会の多数派を占める政党が異なる"ねじれ"のことを「コアビタシオン」と称する。コアビタシオンは左派のミッテラン大統領期に2回、右派のシラク大統領期に1回あり、内政面での大統領の権限は制約されてしまう。コアビタシオンによる決まらない政治の頻発を阻止するため、2002年の選挙から大統領の任期が7年から国民議会と同じ5年に短縮された。以後は、直前に行われる大統領選挙の結果が議会選挙に反映されるようになり、コアビタシオンは生じていない。
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