電通過労自殺からテレビ界は何を学ぶべきか

テレビ局も迫られる「働き方改革」

しかしながら、これを電通1社の問題に矮小化することも正しくない。周知のとおり、過労を原因とした精神障害の労災請求数は増え続けているのである。

実際に、精神障害の労災請求件数はこの10年でほぼ2倍となっている。今回の電通の痛ましい事件も、こうした流れのなかの1つであり、過労死や過労による精神障害の発生について、国が何ら有効な対策を講じてこなかったなかで起きた事件であると捉えるべきである。その意味で、電通という誰もが知っている有名企業で起きたこの事件は、すべての労働者に現実を突き付ける契機を与えたと言っていいだろう。

長時間労働に対する日本企業社会の問題点

このたびの事件における被害者は、亡くなる直前の1カ月間に約105時間の法外労働をしていたとされる。法外労働とは、法律で定められた制限である1日8時間、週40時間を超える労働をいう。月間でならすと、およそ173.8時間(=365日÷7日×40時間÷12カ月)が法律で認められる労働時間である。これに加えて105時間労働していたと考えると、月間278時間ほどの労働だったことがわかる。

もちろん、これはあくまでも労働基準監督署が認定した時間である。労基署も証拠がなければ労働時間を認定しないので、第三者が確認できた労働時間と捉えるべきで、実際の拘束時間や労働時間はもっと長かったと思われる。

ところで、「過労死ライン」と呼ばれる労働時間がある。これは月間時間外労働80時間を指す。この時間数を働いた場合、労働者が心臓・脳疾患などで亡くなった場合、業務との因果関係を認める一つの有力な基準となるものだ。

もちろん、この時間数は誰かの思いつきで定まったラインではない。専門家の間で検討を重ね、労働災害を認定する行政基準として、医学的根拠をもって存在している。この基準は司法においても尊重され、行政と同じ基準で労働と被害との間の因果関係を肯定する裁判例は数多い。にもかかわらず、このラインを超えた長時間労働は横行し、前記の通り精神障害の労災請求件数は上昇し続けている。

この原因の第1は、わが国の法制度にある。まず、労働基準法上の労働時間の制限は、1日8時間、1週間40時間とされ、これを超えると刑事罰もあるなど、その規制は厳しい。ただし、この制限は同法第36条に基づく「36(サブロク)協定」を締結することで超えることができる。この協定は、使用者が労働者の過半数を代表する者もしくは過半数を組織する労働組合との間で結ぶものである。すなわち、労働側が許容しない限り、過労死ラインを超えて働かせることは本来不可能である。

ところがわが国では、過労死ライン超えの労働が横行している。このうち違法なもの(「36協定」がなかったり、「36協定」を超えて働かせたりしている場合)は論外だが、「36協定」によって過労死ラインを超える働き方が合法とされることも多い。これは「36協定」が過労死の抑止力として十分に機能していないことを示しており、法制度自体に問題があると言わなければならない。

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