電通過労自殺からテレビ界は何を学ぶべきか テレビ局も迫られる「働き方改革」

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放送界も含め、長時間労働による過労死ゼロ社会を実現するために、必要な施策について触れておきたい。

まず前提として、労働契約は使用者が労働者を指揮命令して労働させることを内容とするものであるから、長時間労働を防ぐには、第一に使用者側に対する規制をしなければならない。規制の内容は、法制度として長時間労働を防ぐ仕組みの再構成と、企業がその制度を遵守する仕組みの確立である。

制度内容としては、まずは「36協定」で許容される労働時間の上限を法定すべきであろう。一番わかりやすい規制である。ただし、現在政府で検討されているのは、「100時間未満」というものである。ないよりはマシと言えなくもないが、過労死ラインを超えた上限設定をするのは、労働者の健康・生命に対する意識の薄さを感じざるを得ない。

また上限規制のほかにも、労働者に十分な休息を取らせることを義務づけることも大事である。裏を返せば、これは労働者に「休息を取る権利」を保障することでもある。先ほども触れたが、労働者の健康を維持するには休息が非常に大事である。制度としては、勤務間におけるインターバル規制が必要だと思われる。政府の働き方改革では、これが単なる努力義務になっているが、法制度として導入し、過労死を防ぐ方向へ踏み出すべきである。

さらに、労働時間を使用者に管理させる義務を明確に定め、これに反した場合は企業に制裁を与えることも大事である。現状、管理していない企業のほうが裁判では「強い」という矛盾がある。これは請求する側が立証責任を負うためである。しかし、記録を付けることを企業に義務付け、これに反する場合は立証責任を転換するなど、民事的な制裁を課すようにすれば、企業も労働時間の管理を真面目に行うものと思われる。

規制をしても違法を犯す企業はある

もっとも、こうした規制をしても違法を犯す企業はある。現に、ブラック企業と呼ばれる企業は法律など無視している。そこで、これらの制度を守らせる仕組みが必要となる。その意味で、労働基準監督官の純粋な意味での増員が必要である。一部に「民営化」もささやかれているが、労働基準監督官は、労基法等の法令について司法警察員と同様の権限を持っているので、こうした公権力を民営化するということは、通常考えられないことである。

放送界は特別な業界であり、先にも述べたとおり、1つの作品を作るという点において、各労働者が惜しみない労力をつぎ込み、できるだけ高いレベルのものを作ろうとする。

そうした労働の現場で、長時間労働をなくすことは容易ではないだろう。しかし諦めてしまっては、わが国の過労死ゼロ社会の実現はあり得ないことになる。過労死・過労自死をなくすことを是とするならば、使用者側はもちろん、労働者側も覚悟が必要となる。

本稿は電通事件を機に、放送界における長時間労働をなくすために、部外者からの提案をさせていただいた。現場で働く労働者からすると、的外れなことを言ったかもしれないが、そこはご容赦いただきたい。

佐々木 亮 弁護士/ブラック企業被害対策弁護団代表

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ささき りょう  / Ryo Sasaki

1975年生まれ。99年東京都立大学卒。2003年弁護士登録。日本労働弁護団常任幹事/ブラック企業被害対策弁護団代表/ブラック企業大賞実行委員。著作として『いのちが危ない残業代ゼロ制度』(岩波ブックレット、2014年、共著)など。

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