児童精神科医が語る「親の愛情不足」への誤解 いま「特定の他人との信頼関係」が足りない
小澤 いぶき(以下、小澤):というと?
紫原:子どもに最大限手をかけなければ、愛情が十分に伝わらないんじゃないかという思いを、多くの親、特に働く親が抱えていると思うんです。愛情=時間ではないと頭では思いつつ、私の母親はある時期まで専業主婦だったので、よくおやつまで手作りのものを食べさせてくれました。今、母となった自分がわが子に同じことができていないので、どうしても不安に思ってしまいます。
また、うちは一人親家庭なので余計に、何か子どもに問題が起きれば「愛情不足」が原因だと言われてしまう気がします。そもそも、みんなが漠然と「愛情」と言うものって、実際のところ何なんでしょうか。
「愛情機能」だけは、外部に委託できない
小澤:そうですね、愛情とは何か、難しいですね。1900年代、アメリカのオグバーンという社会学者が、家族機能を7つに分類したのですが、「経済機能」や「教育機能」、「保護機能」といったものと並べて「愛情機能」を挙げています。
オグバーン説で興味深いのは、「愛情機能」以外の6つの機能は、基本的に家族の外に委託することが可能であるとするのに対し、唯一「愛情機能」だけは、外部に委託できないと言っている点です。
紫原:つまり、愛情は親しか注げない、ということでしょうか?
小澤:いえ、そうではないんです。愛情は親でなくても注げますし、発達心理学的に重要だといわれている愛着も、親でなくても、「特定の人」との関係の中でも育まれるといわれています。愛着とは、イギリスの精神科医、ボウルビィの愛着理論で提唱している概念の1つで、 人間だと乳幼児期に、養育にかかわる特定の人との間に築かれる情緒的な結び付きのことを言います。
紫原:具体的に、どういったかかわりがあればいいんでしょうか?
小澤:まずは、乳児期の子どもが刺激に対して反応したり、泣いたりほほ笑んだりしたときに、特定の養育にかかわる人が、関心を持って反応を返したり、安心感を与えたり、ケアすることが大切だと言われています。
たとえば、おぎゃーっと泣いたら、よしよしと癒やしてもらえるようなことですね。そして、大切なのは、これが特定の人との間で交わされることです。
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