児童精神科医が語る「親の愛情不足」への誤解 いま「特定の他人との信頼関係」が足りない

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小澤:まずは医療や専門機関で、虐待などでできたその子のトラウマを治療していくこと。また、子供にかかわる人も、トラウマによる影響を熟知して子どもにかかわること。そこから、特定の人との信頼関係をきちんと築いて、子どもが自分や他者を信頼できるような環境をつくることが大切なのではないかと思います。

自分や他者への信頼感が生まれ、誰かに頼れるようになると、その子の生きづらさが少しずつ変化していきます。実際、私は養護施設で虐待やネグレクトの中にいた子どもたちと長く接したこともありますが、日常的に虐待されるような環境から離れて、トラウマがケアされ、人との信頼関係ができて、何かあっても大丈夫だ、と安心できる中にいると、最初は誰にも頼れなかった子どもが、しだいに誰かに頼れるようになったり、物事へ取り組む意欲が取り戻されていくように感じました。

親子を孤立させない仕組み

紫原:愛着形成って重要なんですね。ただ、自分のかつての子育てを振り返ってみると、泣いているわが子に必ずしも優しい言葉をかけてあげられないときもありました。公共の場所だと「早く泣きやませなきゃ」と焦ったり、疲れていると「私だって泣きたいよ」なんて思ったり。

小澤:そうなんです。子どもの感情を大人が受け止めるためには、ある程度養育する側に余裕がないと難しいんです。

たとえば、外で子どもがちょっと泣いたときに、周りの人がすぐに「うるさい」って言う環境だと、親も子どもを「泣きやみなさい!」って黙らせざるをえないですよね。親がどういう行動をとれるかって、社会の価値観とか情勢、あるいは本人の育ってきた環境に、大きく左右されると思うんです。他人に迷惑をかけてはいけません、と言われて育つと、それが当たり前だと思って大人になりますからね。

今の日本の社会では、何か事件が起きると簡単に親を責めますし、育て方が悪いなんて言う人もいます。でも、そのお父さん、お母さんを導いている一因は社会にあるという意識を持っている人は少ないように思います。

紫原:それって日本に顕著な傾向なんでしょうか。海外ではどうなんでしょう?

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