児童精神科医が語る「親の愛情不足」への誤解 いま「特定の他人との信頼関係」が足りない
紫原:特定の人ですか?
小澤:ええ。2000年にルーマニアで、ブカレスト初期養育プロジェクトという興味深い研究が行われました。生まれた直後から一定期間を乳児院で育つ子、乳児院から里親のもとに移って育つ子、乳児院に入ったことのない、一般家庭で育つ子、それぞれの発達を調べたんですね。すると、乳児院で育った子どもは、里親の家庭や一般家庭で育った子どもに比べて、愛着形成に課題があることがわかりました。もちろん、虐待やネグレクトが日常的に起きている家庭よりは、施設や乳児院で育ったほうが良いのですが、血縁でなくても、特定の人との関係をつくれる環境が理想だと感じます。
紫原:だとすると、赤ちゃんのうちから保育園に預けるのはよくないんでしょうか?
小澤:そんなことはありません。先ほどの愛着形成ができていることがとても大事で、そうすると、子どもは、愛着対象から大切にされているということが、心の中に内在化してくるんですね。なので、保育園に行っていても、帰ったらちゃんとその人がいることが想像できるし、安心できます。
愛着形成がなされないと起こること
紫原:なるほど。では、乳幼児期に愛着形成がなされないと、どんなことが起きるのでしょうか?
小澤: 人と関係をつくっていくのが難しくなることがあります。人とのかかわりを過度に警戒したり、逆に距離が近くなりすぎたりと、特定の人との親密な関係を築くことが難しくなるといわれています。 また、人とのかかわりがうまくいかない中、何度も傷つき生活に困難を抱えたり、たとえば学習などへの意欲が奪われていることもあります。
紫原:え、それはどうしてですか?
小澤:これは福井大学の先生方の研究によって明らかになりました。学習意欲など、意欲にかかわる、脳の部分と、愛着形成とは深く関係しているそうなんです。(参照)
紫原:そうなんですか! もしそういった症状が見られた場合、どういう対応が必要なんでしょう。
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