斜陽の「そろばん塾」がにわかに増えた舞台裏 「右脳を鍛える」をウリに、500教室を突破

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当初は、「衰退産業のそろばん教室がうまくいくわけがない」と、融資の相談に行った銀行には門前払いをされたが、「京大生の半分が経験した習い事」をうたったチラシを打つと、無名のピコにすぐに40~50人の生徒が集まった。

2校目で、運よくそろばん10段の資格を持つ大学生のアルバイトを採用でき、指導方法などのノウハウを確立。京大個別会で提携していた塾からの要望があり、2009年にそろばん塾ピコの商標と指導ノウハウを他校に提供するフランチャイズ(FC)展開を本格的に始めた。

ピコが急拡大した背景には、加盟しやすいFCのパッケージがある。加盟の際に必要なのは、加盟金30万円(既存の教室の紹介があれば15万円)だけ。商標やノウハウの見返りに、ピコ本部へ支払うロイヤルティは1教室あたり月1万5000円と低額だ。

さらに2校目以降を開設すると、すべての教室のロイヤルティが減額される仕組みを導入している。インターネット上で受けられる塾長・講師の研修は、何度受けても無料としている。

1コマ50分の授業は講師1人で生徒15名程度まで対応可能。黄色のピコそろばんを使う(写真:そろばん塾ピコ提供)

生徒からの月謝は週2回の授業で5000円~6000円を目安にしているが、加盟者が自由に設定できる。

そろばん経験があればパートの主婦でも教えられることから、講師の採用ハードルも高くない。教室として公民館やレンタルルームなどを借りられれば、個人でも始めることができるという。

独自の検定試験を毎月実施

では、ピコの本部はこれだけでどう収益を上げているのか。実は、日本商工会議所珠算能力検定試験とレベルを合わせた独自の「ピコ検定」を本部が毎月行っており、FCの教室で検定を受験する生徒が増えれば増えるほど、検定料が本部に入る仕組みだ。

ピコはこれまで加盟教室募集の広告などを打ったことがなく、本部のホームページすら存在しない。京大個別会で提携していた約60の塾から始めたのが、口コミで広がり、現在は法人・個人を合わせて200程度の加盟者に広がった。全国で532あるそろばん塾ピコの大半が直営ではなくFCによる運営だ。

塾業界は受験生ビジネスに振り回されやすく、特に地方の塾は競争激化で生徒の争奪戦となっている。加盟者の中心である地方塾は、ピコを兼営することで空いた教室の稼働率を上げ、将来受験生となる未就学児~小学生を取り込めるメリットがある。

孝橋氏は、「経営不振にあえぐ地方の塾の駆け込み寺のようになっている。毎月10~20校のペースで教室が増え続けており、今後3年内に1000教室を突破できる」と話す。現代のそろばん塾の勢いはまだまだ止まらなそうだ。

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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