日本郵政の「大型M&A」、失敗は必然だった 「手段が目的化」するリスクは結婚と同じだ
企業の資産である工場や商品の価値合計を10億円保有している会社が、年間1億円の利益を生み出していたとした場合、10億円以下では買収できない。この10億円の資産に加えて、どの程度の金額を支払えば買収が可能になるのかという上乗せ部分を“のれん”という。仮に、買収先の利益が、5年間続くのであれば、15億円で買収しても元は取れ、10年続くのであれば、20億円出しても良いと考えられるだろう(簡単な理解のため税金や利回りなどは無視している)。さらには、工場や事務所を共同利用することで費用を削減できたり、販売先が同じで買収先の商品を一緒に売ることができ、0.5億円の利益を生めた(シナジー効果が生まれた)とすれば、年間の利益額が1.5億円と計算されるので、この利益水準が5年間継続すれば、17.5億円出しても問題ないと考えられるだろう。
このように企業の買収金額は、その企業が保有している資産の価値と、将来生み出されるであろう利益とその期間を見積もって決定されることから、それらの価値を精緻に判断しなくてはいけない。特に、シナジー効果を考慮した場合の利益額は、実際に統合しなければわからない場合も多く、あくまで想像の範囲内での金額設定となる。
これに加えて、企業買収の際は入札形式になることが多く、自社の判断では17.5億円で買いたいと思っていても、入札に参加した別の企業が20億円を提示すれば落札できない。どうしても買収したい候補先であれば、投資の回収期間が長くなることを受け入れ、入札で勝てる21億円という金額を設定して買収することとなる。この場合は、さらに“のれん”の金額が11億円と大きくなってしまうのである。
このような理解から日本郵便の減損をみてみると、トール社の純資産が買収時に2953億円だったのに対し、6200億円で買収したとのことであるから「のれん」は3247億円だったと考えられる。今回の減損は4000億円ということであるから超過収益である「のれん」だけではなく、純資産の部分も減損をしていることになる。
つまりは、比較的容易な資産の査定自体も間違っており、シナジーを考慮した将来利益の計算は、ほとんどできていなかったことが露呈されたことになる。特に、トール社は物流会社であることから、大きく利益水準が変動する業種でもなく、しかも、たった2年で減損とは、あまりにもずさんな買収金額の決定であったことが想像される。それでは、なぜ、これほどまでにずさんな企業買収を行い、結果として巨額の減損を行う羽目となったのか。それには、大きく2つのポイントを指摘することができる。
M&Aからはいちばん遠い存在だった
今回の巨額減損を生んだ原因は、買収時に高値づかみをさせられたことと、買収後の統合がうまくいかずシナジー効果が発揮されなかったということだ。
日本郵政は2015年11月に株式上場を果たしたが、同年2月にトール社の買収を決定している。これは、株式上場に際し、投資家に向けて日本郵政の成長戦略を見せなければ上場後の株価が上がっていかないため、そのわかりやすい表現としてM&A戦略を打ち出し、その実現性を見せつけたかったのだろう。
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