日本郵政の「大型M&A」、失敗は必然だった 「手段が目的化」するリスクは結婚と同じだ
さらには、トール社買収時には、上海拠点しかなかった日本郵政の事業が、トール社とのシナジー効果を生み出すというのはなかなか難しいものがある。両者が協働することで売り上げを上げたり、費用を抑えたりするのは、そうとう無理がある。
結婚に例えて考えるとM&Aのあるべき動き方がわかる
今回の日本郵政のトール社買収は、恋愛をしたことがなく、海外に行ったこともない人が、年齢適齢期がきたので、強引に国際結婚をしたようなものだった。結婚は目的ではなく、あくまで手段で、価値観を共有できる人間同士が人生を共にするものである。その際には、焦らずに相手との価値観の共有や人生の歩む道をしっかりと話し合い、相互理解を深めなければ、そのあとの結婚生活はうまくいかない。
また、亭主関白やかかあ天下のように、一方が強権的な立場を維持すればなかなかうまくいかないものである。特に、 M&Aの場合は、買った企業が親会社となることから序列が存在するかのように錯覚しがちだ。
たとえば、ささいなことだが、統合後の企業名が重要だったりする。三井住友銀行は、三井銀行が太陽神戸銀行と合併した1990年には、あえて吸収された側の太陽神戸銀行を合併後の企業名の頭につけ「太陽神戸三井銀行」としている。その後、1992年に「さくら銀行」へと改名し、三井も含めて名前がなくなった。しかし、2001年の住友銀行との合併の際には、「三井住友銀行」と三井の名前のみを復活させ太陽神戸はなくなってしまっている。統合10年の歳月のなかで時間をかけながら旧太陽神戸の社員に一定の納得感をもってもらうことで大きな抵抗を生まなかったのだと筆者は考えている。
このように、買収の相手先のプライドを最大限尊重するための細かな気配りの積み重ねというのがM&Aにはいちばん必要であり、こういったことを組織全体として体で理解しなければM&Aはうまくいかない。そのため、M&Aは最初から大きな案件を進めるのではなく、小さな案件で少しずつ慣れていくという考え方も非常に重要といえる。
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