旭化成、「心肺蘇生事業」が急成長した舞台裏 買収から5年、高値づかみの評価をくつがえす

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旭化成は以前からヘルスケア部門で医薬品や人工透析用の中空糸型人工腎臓、輸血用フィルターなどを手掛けてきたが、部門利益は100億円に満たなかった。そこで事業拡大を図るため、医療関連分野の市場規模が大きな米国で有望企業のM&Aを模索。みずから現地の企業を調査し、見つけ出したのが米ナスダックに上場していたゾール社だった。

「ゾールは心肺蘇生の分野で確固たる地位を確立した企業。全米の医療機関や救急隊から非常に高い信頼を得ているうえ、成長性もあると思った」。当時、新事業企画開発室で買収にかかわり、現在は日本法人のトップを務める坂野誠治・旭化成ゾールメディカル社長はそう振り返る。

牽引役は着用型の除細動器

ただ、ゾール社買収は投資家やアナリストから当初不評で、発表翌日に旭化成の株価が一時6%下がったほどだった。買収金額が1800億円に達し、当時のゾール社の業績を考えると割高感が強かったからだ。

買収金額がゾール社の純資産額よりも非常に大きかったため、決算で償却対象となる「のれん代」が約1100億円も発生。それとは別に償却が必要な無形固定資産分も含めると、旭化成の決算上はゾール社関連で年間100億円超の償却が15年以上も続く。「これではかなり先まで収益貢献が期待できない」というのが大方の見方だった。

ゾール社の成長を支えるライフベスト(写真:旭化成)

ところが、ゾール社はそうした予想を大きく覆した。冒頭で触れたように、同社の業績は急速に拡大。旭化成の決算上はのれんなどの償却分が差し引かれるが、それでも2016年度の営業利益への貢献は150億円前後に及んだ模様。多額の償却負担で業績に貢献しないどころか、今や旭化成のヘルスケア部門の収益を支える大黒柱となった。

なぜゾール社は急成長が続いているのかーー。製品拡充のための買収や海外展開も売り上げ拡大の一因だが、最大の牽引役は米国で普及が進む「Life Vest(ライフベスト)」だ。

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