M&A交渉で優位に立つのは規模の大小の問題ではない
『100円のコーラを1000円で売る方法3』には、主人公・宮前久美の勤める駒沢商会が、ライバルのバリューマックス社から買収提案される場面が描かれている。国内勢力を結集して、外資系の黒船ガンジーネットに対抗しようというのだ。
駒沢商会は成長していたとはいえ、規模は国内最大手のバリューマックス社の3分の1。会社存亡の危機に際し、創業者の息子で2代目社長の駒沢一郎は、宮前久美に次のように語っている。
「ハハハ。バリューマックス社のほうが強い? 私の認識はまったく逆です。立場が弱いのはバリューマックス社のほうですよ」
数カ月後、駒沢商会はバリューマックス社に買収されるが、駒沢一郎はなんと、バリューマックス社の筆頭株主に収まっていた。なぜ買収を仕掛けたバリューマックス社のほうが不利なのか。規模の大きな会社に飲み込まれたはずの駒沢一郎は、なぜ強気の交渉を貫くことができたのか。
バリューマックス社の提案は、〈山倉メソッド〉という独自の武器を持つ駒沢商会と、大企業に強いバリューマックス社が一緒になれば、双方の強みが生きるWin-Winの関係になるというものだった。だが、一見もの柔らかで、つねに笑顔を絶やさず、敵をつくらない印象の強い駒沢一郎は、実は極めてしたたかに、両社の現状を分析していた。
もし今回の交渉が失敗したときに困るのはどちらか?
今回のM&A交渉が破談に終わっても、駒沢商会には、独自路線を突き進んで「〈山倉メソッド〉の機能強化版を自社開発する」という選択肢がある。さらに、「〈山倉メソッド〉を売りにして黒船ガンジーネットと一緒になる」という奥の手もあった。
一方、バリューマックス社は〈山倉メソッド〉に代わる強みを自社開発する必要があるが、そのための時間は残されていない。
手持ちのカードを見比べれば、駒沢商会の優位は動かない。そして駒沢一郎の読みは見事に当たったのである。
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