日本の威信が掛かる「国策MRJ」の巨大重圧 5度納入延期で先行きに暗雲

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FAAが納得する説明の仕方、文化の違いを理解していなかった――。複数の関係者はこう振り返る。その理解不足を補うため、同社ではボーイング出身など経験豊富な外国人技術者の雇用を増やして対応を急いでいるが、5回目の延期に至ったのも外国人技術者からの指摘がきっかけだった。  

開発費が大幅に増加

MRJの受注数は現在427機で、うち確定分は233機。目標は今後20年で1000機以上。開発費は当初1500億―1800億円程度を想定していたが、4度の延期を経て倍に膨れあがった。5度目の延期を受け、三菱重工の宮永俊一社長は計画に対し「3割くらい増える」可能性を示唆、3500億円程度から大幅に積み上がる見通しだ。

開発費や損益分岐点などは公表していないが、三菱航空機は民間航空機事業は長期にわたる投資と認識し、「長期的な視野をもって開発費用を吸収していく」とコメントしている。

エンブラエル、ボーイング、エアバス<AIR.PA>の民間航空機事業が過去3年間で達成した平均営業利益率は7.84%で、航空機1機あたり利益は約370万ドル(赤字のボンバルディアは除く)。三菱が開発費を回収するには800機以上は売る必要があるとの計算になる。

米ティールグループの航空産業アナリスト、リチャード・アボウラフィア氏は「カタログ価格を30%下げれば1200機は売れるだろうが、それは厳しい」と語り、年30機を25年間、合計約750機が現実的とみている。

世界貿易機関の規則では政府が航空機開発に直接、補助金を拠出することを禁じている。ただ、国際協力銀行など政府系金融機関がMRJを購入する顧客の資金調達をアレンジすることは可能だ。東南アジアには国営航空会社も多く、国が政府開発援助を通じて間接的に売り込みを手助けすることはありえるだろう。

MRJの採算ラインをどうクリアするか。「国策」プロジェクトとしての成功を求められる重圧の中、三菱は政府の後ろ盾に頼る場面が一段と増えそうだ。

(白木真紀、Tim Kelly、Allison Lampert、Brad Haynes 編集:北松克朗)

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