「出稼ぎ日本人」も無縁じゃない豪州のひずみ 増税をめぐる混乱の陰でグレーな雇用が横行

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

現地の日本人に取材を進めていると、「キャッシュジョブ」をしているという若者に結構出会った。日本食レストランや中華料理店ではこの雇用形態を取っているケースが少なくないとされる。

しかも、「キャッシュジョブ」では記録に残らないため税が天引きされないケースがあり、最低賃金以下の給料しか支給されなくとも、結果的には「ローカルジョブ」とさほど変わらない給料をもらうことが、場合によっては可能だといわれている。そのため、ワーホリ税の増税が可決されようが、そもそも税金とは関係のないグレーな雇用形態の下で働いているため、「ぶっちゃけ関係ありません」ということなのだ。

生花や肉製品などを扱うマーケットでもワーホリの若者たちをよく見掛ける(筆者撮影)

ヨーロッパからの若者にも蔓延

税を払わないアンダーグラウンドな雇用形態が蔓延しているのは、アジア系のワーホリ滞在者周辺ばかりではなかった。西海岸近郊にあるワイナリーが密集する人気エリアで、ワイナリー経営をしていたオーストラリア人経営者は、自らが醸造した琥珀色の赤ワインをグラスに注ぎながらこう明かした。

元ワイナリー経営者は”キャッシュジョブ”で多くのワーホリ滞在者を受け入れてきたと明かす(筆者撮影)

「ブドウの収穫時期になるとこのあたりの農家は、主にヨーロッパから来たワーホリの若者を大勢雇うのだが、キャッシュジョブは少なくないのが実情さ。だって楽だろう、納税を気にせず現金で渡したほうが。それに、もし税を気に掛けていたら大量の書類を書かねばならないし、とても面倒なんだよ」

すでに、ひそかに蔓延しているキャッシュジョブが、ワーホリ増税を機にさらに増加する可能性も指摘され始めている。今回、取材したワーホリ滞在の裏側にあるこのグレーな実態があるかぎり、税負担を増やしたところでどれほどの効果があるのかは、疑問を抱かざるをえない。

ワーホリ制度が掲げる本来の目的が建前とならないよう、多文化主義を掲げるオーストラリアでたくさんの出会いと価値観に触れ「出稼ぎ目的」ではない、プライスレスの経験を得る若者が減らないことを願う。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事