ユニクロ柳井社長の「米国撤退発言」は軽率だ ジャパンバッシングが再燃する懸念がある

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同じ「日本の超大富豪」でも、ソフトバンクグループの孫正義社長はトランプ氏の受けがいい。孫氏はトランプ氏に直接面談のうえでビジネスの話をした。トランプ氏は会談のあとメディアの前で「MASA(マサ)!」と2度も声をかけて親愛の情を表した。柳井氏がメディアを通じて間接的にトランプ氏を批判したのとは大きな差である。

孫氏と柳井氏との比較はさておき、今後、米メディアによるジャパンバッシングをけしかけるような報道の仕方には注意を要する。日本政府と日本企業は、米国の世論がそういう方向に向かわせないように先手を打っていく必要がある。

日本からインフラ投資への積極的な提言を

実は、トランプ政権が進めようとしている法人税の大幅減税や巨額のインフラ投資は、米国に進出している日本企業にとってもメリットが大きい。柳井氏が批判している国境調整による輸入関税などは、トランプ政権にとって、どうしても実施しなければならないような必須戦略ではないのだ。

国境調整に対しては、政権与党の共和党の中でも反対論が非常に強い。にもかかわらず、柳井氏のように必要以上にネガティブに反応するのは得策とはいえない。むしろ日本政府や日本企業のほうから、「こうしてほしい」とか「こうしたらどうか」と、前向きに課題を提起するポジティブな対応をしたほうがいい。

「減税とは政治的な芸術である」とは、ウォール街の言い伝えだが、これは覚えておいて損はない。連邦税にせよ地方税にせよ、ひとたび減税に関する法案が出ると、それに関連したプロジェクトが続々と登場する。そしてプロジェクトファイナンスが山のように積み上がる。ウォール街で働く税法や財務のプロフェッショナルたちは、夏の休暇も返上するほどの忙しさになるだろう。

アメリカでは、各州によって税法が異なる。法人税率が高いところもあれば低いところもある。州によってはいわゆる所得税がないところさえある。投資に対する税制も州によって違いがある。日本のように、中央政府が決めて、地方には交付税という形でバラまかれるというような仕組みはない。各州が地域活性化のために税制をクリエーティブに活用する。

そんな各州の地域活性化のためのプロジェクトでは、日本からの投資や企業進出が大歓迎されることは間違いない。法人税減税や投資減税によって、さまざまなプロジェクトファイナンスが生まれる。日本の進出企業もそんなクリエーティブなプロジェクトに参加することによって、自ら利益を得ることができる。進出地域で現地企業との競争が起これば、地域活性化にも役立つ。

トランプ政権が日本に求めているのは、そんな前向きな姿勢であり、積極的なアクションだ。それがアメリカの利益になり、トランプ政権の基盤強化にもなるからだ。

ビジネスライクなトランプ大統領は、安倍晋三首相やソフトバンクグループの孫氏のようなポジティブな提案が大好きだ。この2人に親近感を抱いたのは、両氏がアメリカの雇用拡大やアメリカ経済の活性化につながる前向きなスタンスを見せたからである。アメリカにプラスになれば、それはひるがえって日本にもプラスになる。そんなウィン・ウィンの関係が成立すれば、アメリカでジャパンバッシングが再燃することなどありえない。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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