1つは、オバマケア代替法案の審議をもたつかせた責任だ。審議が長引くと、もう1つの目玉の減税法案への道程が複雑になってしまう。4月末には暫定予算が切れ、新予算を組まなければ政府機関は閉鎖に追い込まれるためだ。
もう1つの理由は、ライアン氏が国境調整による税制改革法案の審議を混乱させていることだ。ライアン氏の真の狙いは、連邦法人税の大幅引き下げと、その財源として輸入品の課税を強化し、「税の国境調整」を導入するというもの。この国境調整による輸入関税は輸入品の値上がりを招き、アメリカの消費者にとっては負担増となる。GDPの最大要素である個人消費にはマイナスに働く。柳井発言はそこを突いた。
柳井発言をめぐる報道は、共和党支配の議会における税制改革法案の論議を加速させる後押しなるかもしれない。
ジャパンバッシング再燃につながる危険
前述のように、米メディアは柳井発言を「日本の超大富豪がトランプ大統領を脅した」と報じた。わざとトランプ大統領を怒らせるような書きっぷりだが、はたしてトランプ大統領は本当に心証を害したのだろうか。トランプ氏自身、米メディアをこっぴどく批判しており、多少はメディアに批判的に書かれても平気だ。すでに慣れっこになっている。
ところが、「日本の超大富豪にメディアを通じて批判された」としたらどうか。大富豪であることを自身のアイデンティティであると自負するトランプ大統領には、決して愉快ではないだろう。まして「脅された」というのは穏やかではない。プライドを傷つけられたと思うに違いない。ビジネスの世界で成り上がったトランプ氏にしてみれば、交渉事は面と向かって直接やり合うのが常識だ。メディアに間に入られてやり合うのは気質に合わない。
米メディアは、そんなトランプ氏の気質を百も承知のうえで、わざとセンセーショナルに報じている。大衆受けするセンセーショナリズムはメディアの得意とするところだ。そんなメディアのやり口がトランプ氏は大嫌いだ。柳井発言がそんなセンセーショリズムに乗せられ、結果的にトランプ氏の感情を逆なでし、プライドを傷つけたとなれば、捨て置けない。日米関係にとってもマイナスになるだろう。ジャパンバッシングの再燃にもなりかねない。
トランプ氏が不動産ビジネスで成功して有名になった時期はアメリカでジャパンバッシングが盛んな時代。“ジャパン・アズ・ナンバーワン”がもてはやされていた。それから30年以上経ち、今では中国のほうが日本より金持ちになっているのだが、それでも日本の金持ちのほうが中国よりも格上のように思われている。柳井氏のような超大富豪に「脅し」をかけられるのは、アメリカでは新興成金との批判さえ受けているトランプ氏のプライドを大いに傷つけるはずだ。
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