抗体医薬品開発で出遅れ、最良の薬がすぐ使えない <シリーズ・くすりの七不思議>

この1~2年、日本の製薬企業が、欧米の製薬企業を買収する動きが活発化している。それも抗体医薬品や抗ガン剤などの最先端分野で先行する企業を買収するケースが目立っている。昨年エーザイが米モルフォテック社を、今年5月には武田薬品工業が米ミレニアム社を買収。いずれも数千億円の巨額を投じる大型買収だ。アステラス製薬は昨年、抗体ベンチャーのアジェンシス社を買った。

抗体医薬品とはヒトが持つ免疫機能を活用して病気の原因を治療する薬。この10年で欧米では研究が進み、製品化される医薬品が増えてきた。同じように抗ガン剤でも特定の分子を狙い撃ちして病気を治す分子標的薬と呼ばれる薬が、新しい開発アプローチとして注目されている。

実は日本企業による欧米企業の買収が盛んになっている大きな理由は、こうした分野で出遅れていることがある。

日本企業は生活習慣病である高脂血症治療薬や血圧降下剤、糖尿病治療薬などに力を入れてきており、抗体医薬品を代表とするバイオ系医薬品に弱い。医薬産業政策研究所の調査によると、バイオ系医薬品の開発では、日本は開発候補品の数、開発品目に占める割合でも、欧米に比べ圧倒的に見劣りする(下図参照)。

日本企業がこれまで生活習慣病の治療薬に熱心だったのは、高齢化社会が進み生活習慣病のマーケットが安定的に成長してきた背景がある。医療制度は公的保険によって出来高払い。いわば「内向き体質」でも業績を伸ばせた。ところが欧米ではこの十数年のうちに抗体医薬品や抗ガン剤で研究が加速。生活習慣病に研究領域が偏っていた日本とは大きな開きができてしまった。

抗体医薬品は研究開発費や製造コストも高いが、開発に成功したリターンが大きい。1カ国当たりの患者数は少なくても、世界各国で販売すれば潜在市場は巨大だ。

日本企業を買収に突き動かしているもう一つの理由は、特許切れ後の不安だ。多くの企業で今後数年のうちに主力の医薬品が相次いで特許切れを迎える。特許が切れると後発品がシェアを奪い、それまでの売り上げは急減してしまう。その対策として、今後、市場が伸びると予想される抗体医薬品などで丸ごと開発候補品を買うことで、一から研究する時間を省こうという考えだ。

日本企業の内向き体質は、自国でしか販売していない薬が多いことからもうかがえる。米国、EU、日本のいずれかの地域で1999年から2005年の間に承認された新薬334製品のうち、自国(自地域)でしか承認を受けていない医薬品は、日本は20%もあるのに、米国は11%、EUは4%にとどまっている。「日本は承認される薬は多いが既存薬を改良しただけの薬が多すぎる」との指摘は厚生労働省からも聞こえてくる。

もちろん患者にとってその医薬品がどこの国で開発されたかはあまり関係ないかもしれない。優れた車であればトヨタでもベンツでもよいのと同じこと。しかし欧米で開発された優れた薬も日本にもたらされるのはいつも数年遅れだ。世界の潮流に背を向けた結果として、最良の薬が日本ですぐ使えないというのは患者にとっても不幸である。

(週刊東洋経済)

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