統合のマルチスピード化はEUの維持に有効か 危機意識は強いがリスクをはらむローマ宣言

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EUが直面している問題は、意思のある国の先行を認めるだけでは解決できないものもある。単一通貨を導入したユーロ圏内の格差の問題だ。第3次支援プログラムに取り組むギリシャの状況はとりわけ深刻だが、イタリアでも雇用環境がなかなか好転しない。

ユーロ参加国が守るべき財政ルールは、債務危機を契機に厳格化された。競争力が低く成長・雇用情勢が厳しい国ほど、財政赤字が大きく政府債務の水準が高いため、格差はますます解消しにくくなった。

置き去りにされる国のユーロ離脱観測を高める

ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は、3月の政策理事会後の記者会見で「デフレのリスクは去った」と述べ、2014年6月以降の追加緩和策の一部を見直し始めている。確かにユーロ圏全体を見れば緩やかながらも景気拡大が続くようになっているし、原油価格の影響もあり、インフレ率は2%を超えた。

しかし、財政政策の協調や共通予算といった制度を欠く単一通貨圏で、ECBは唯一、ユーロ圏全体を見渡した政策を実行できる機関でもある。ドイツ連邦銀行からの異論はますます強まりそうだが、異次元の金融緩和からの出口戦略は慎重に進めざるをえない。

ユーロの制度的な不完全性の克服は、「ユーロ圏のマルチスピード化」、たとえばドイツやオランダなど意思と能力のある国を先行させる方法を採れば、容易になるだろう。しかし、置き去りにされ、先行国に追いつくことができないと見なされた国のユーロ離脱観測を強めることになるだろう。

ユーロ未導入の英国ですら、英国とEUの協議が平行線をたどるおそれがあり、「秩序立った離脱」が実現するか定かではない。ユーロ圏のマルチスピード化は秩序立った問題の解決策となりうるのか。連帯の精神を欠く形で実施されるとすれば、その効果に懐疑的にならざるをえない。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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