統合のマルチスピード化はEUの維持に有効か 危機意識は強いがリスクをはらむローマ宣言

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これまでもEUの統合は、参加国は拡大しつつも、ユーロ導入国と未導入国が混在することが象徴するように、マルチスピードで進展してきた。ローマ宣言で、あらためてマルチスピードの欧州という方向が示されたのは、EU懐疑主義やポピュリズムの圧力を受けて揺らぐEUが「前例のない挑戦」のための消去法的な選択という面がある。

EUの欧州委員会が3月1日に公表した「欧州の将来に関する白書」(以下、白書)では、EUの未来像として、(1)現状のまま進む、(2)単一市場に絞り込む、(3)特定の政策領域で意思のある国が先行することを許容する、(4)特定の政策領域に絞り込み、より効率化する、(5)全加盟国が足並みをそろえてすべての政策領域でより統合を深める、という5つの選択肢が提示されている。

5つの選択肢のうち、ローマ宣言で打ち出した方向に一致するのは(3)だ。安全保障や警察、刑事、司法、税制や社会政策など特定の政策領域では意思のある国が先行する。政策に対応した予算も設ける。EUの根幹である財・サービス・資本・人の移動の自由を原則とする単一市場の強化には27カ国で臨むという未来像だ。

「マルチスピードの欧州」がはらむ分断リスク

白書に盛り込まれたほかの4つの選択肢は困難であるか、問題の解決策にならない。

まず、従来と同じ形で課題の解決に当たる(1)は限界に達しつつある。
難民問題や安全保障などの新たな課題に協同歩調を取らない(2)は、EUが直面する「前例のない挑戦」への解決策にはならない。(4)の優先すべき政策領域についてEUの権限を強化する選択肢は、現在のEUでは競争政策や銀行監督で採用されている。域外国境の管理や難民政策、通信、エネルギー政策などが対象となりうる。ただ、加盟国間でも政策の優先順位は異なるため、合意形成が難しいという問題がある。すべての加盟国がより広くより深い統合に進む(5)は、EU加盟国間でも統合への関与の度合いが異なるうえに、EUの正当性への懐疑が広がっている現状では、実現可能性に問題がある。

こうして(3)のマルチスピードの欧州という方針が示されるに至った。とはいえ、さらなる統合に進めない国は後に置いていくという解決策には、EU内の分断を深めるリスクがある。ローマ宣言には「より緩やかなペースで進む加盟国に門戸を開き続ける」と明記することで結束を強調したが、東欧諸国は加盟国の階層化を懸念している。

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