王者オートバックスは停滞から抜け出せるか 利益額でイエローハットに勝てない理由

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ただ、追い風が途絶えて、売り上げが減少に転じると、こうした大型店戦略は固定費や人件費が重くのしかかる。「スーパーオートバックスは各店舗の立地や売上に応じて整理するべき。店舗数は半減させてもよいのではないか」と大手証券アナリストは指摘する。

10年間で純利益の1.6倍を株主に還元

反省は通常のオートバックス店舗にもある。オートバックスは店頭でボリューム感のある陳列ができるよう、冬季商戦などの繁忙期前には店舗在庫を多めに積み増す。

この方法は需要が急減した場合に不要在庫を生み出してしまうという悪循環を生んでいた。

オートバックスも手をこまぬいていたわけではない。

米国事業の撤退や国内店舗の統廃合といったリストラを遂行し、車検・整備や車買い取り・販売といった新規の事業基盤の構築を進めてきた。

だが、「特需で実力を上回る業績が出ていたことで、こちらが打った施策がいい形につながったものだと少し誤解してしまった。これは大きな反省だ」と同社の小林社長は話す。

オートバックスは手厚い株主還元で知られている。2006年度からの10年間で稼いだ純利益は累計で540億円、一方で配当と自社株買いで同期間に約870億円を還元している。

「もともと収益性の高い会社で、キャッシュが豊富な余裕のある時期が長かった」(大手証券アナリスト)。こうした資金をより抜本的な改革に回していれば、現状はもう少し違ったかもしれない。

小林喜夫巳社長は1978年に入社。2010年から取締役上席執行役員として、国内オートバックス事業の改革を担当し、2016年6月から社長に就任している(撮影:今井康一)

オートバックスにとってさらに”ショック”だったのは売上高で半分強の規模であった業界2位のイエローハットに営業利益額で抜かれてしまったことだ。

イエローハットは2007年度と2008年度に2期連続の最終赤字に転落。その後、構造改革に取り組み、小規模店舗の機動力を生かし、タイヤに特化した低コスト運営を徹底してきた。

営業利益はV字回復を果たし、2014年度からオートバックスを上回る水準をたたき出している。

2016年にオートバックスのトップに就任した小林社長は、足元で在庫改革を推進。さらに2014年に発表していた中期経営計画を1年前倒しで打ち切ることを決めた。

5月の本決算と同時に公表する新たな中期経営計画では、車検・整備や車買い取り・販売といったカー用品の減少を補う事業の育成はもちろんのこと、カー用品事業の商品についても、先述の「ペダルの見張り番」といったユニークな提案で商品力を取り戻す構えだ。

「自動運転やコネクティッドカーのような進化した車と進化していない車が混在するこの先10年はすごくチャンスがある。既存の車に後付けできる安全や通信の商品を提案することで、マーケットを開拓していく」(小林社長)。

営業利益額でイエローハットを下回るのは3期連続のこととなる。こうした劣勢を挽回するには、魅力的な商品開発に加え、次期中期経営計画でどこまで店舗改革に踏み込めるかがカギとなる。

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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