ファックス1枚で芸能界引退、どこが悪い? あなたが知りたいことと先方の義務は別だ

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芸能ニュースの死は、取材対象であるはずの芸能人が、ニュースのネタ元である自分たちの私生活(交際、婚約、破局、結婚、出産、離別、暴露本出版などなど)を、ファックスで一方的に告知するようになった頃から徐々に表面化しはじめ、彼らが自前のホームページで私生活を公開するようになって、いよいよ最終段階に来ている。芸能レポーターは、芸能人の私生活を狩るハンターであることをやめて、情を通じた芸能事務所から提供される養殖モノのニュースを入荷してサバくだけの、御用スキャンダル流通業者に変貌しつつある。屍肉に群がるハイエナと言われていた当時、彼らは、曲りなりにも野生のニュースを扱っていた。が、その芸能レポーターは、もはや養殖どころか工場生産の御用リークネタをメディアに送り届けるだけの配送業者に身をやつしている……というのが、2002年当時の不肖オダジマの現状分析であったわけだが、たしかに、梅宮アンナ・羽賀研二の「バカップル」がQシートを席巻していた当時のことを思えば、この分析は当たっていなくもなかった。

「文春砲の台頭」は、「芸能ニュースの復活」か?

その後、ファックスが、TwitterやInstagramに替わり、芸能レポーターが後期高齢化を経て順次鬼籍に入る段階を迎えるに及んで、芸能ニュースの死滅はさらに確固たるものになったわけだが、ここへ来て、「文春砲」という反動が、芸能スキャンダルの世界につかの間の活況をもたらしている。

もっとも、「文春砲の台頭」は、「芸能ニュースの復活」というよりは、「調査報道の堕落」がもたらした副産物に過ぎない。

週刊誌が巨大な部数を売り上げていた時代、優秀な記者は、芸能ネタなんぞには興味を示さなかった。なぜなら、政治家の資金スキャンダルのような有意義で手強い取材先が目前にあまたぶらさがっており、読者もそういう硬派の記事を好んだからだ。

ところが、雑誌の世界には、もはやそうした大ネタを取材するだけの資金がない。人材も闘志も残っていない。だから、目先の部数のために、あの“大文春”が一混血アイドルと半端バンドマンの他愛のない火遊びを追いかけ回す醜態を演じているわけで、これは実に、獅子がウサギを追うどころか、芋虫を追いかけ回しているみたいな悲しい話なのである。

文春砲は、見事に的を撃ち抜いたように見える。が、時期を経て振り返れば、彼らがああいうゲスネタを追いかけることで、自分たちがゲスな取材者であることを世間に向けて宣伝してしまったわけで、結局のところ、彼らが長期的に失ったものは、彼らが短期的に得たものをはるかに上回ることになるはずだ。

では、ファックス通知で逃げ切った成宮&江角の勝ちだったのかというと、そういうことでもない。この世界に勝者はいない。

小田嶋 隆 コラムニスト
おだじま たかし / Takashi Odajima

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの1人。著書多数。2022年、65歳で逝去。

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