「少数派が発言する組織」が強い本質的な理由 P&Gが実践する「受容と活用」の凄み

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――確かに「受容と活用」は重要だと思います。私が大学卒業後に働いたのは男性が大半を占める組織でした。見た目の多様性は乏しかった一方、つねに「あなたはどう思うか?」と尋ねられ、意見を言うことを促されてきました。女性管理職は少なかったのですが「私が私であること」は尊重されていたので、インクルージョンされていたのかもしれません。

ところで、働く若い女性から「会社で偉くなっている女性が男性以上に長時間労働で、ああいうふうになりたいと思えない」という意見を聞くことがあります。女性リーダーを増やすこと自体は必要ですが、数だけ増やしても意味がないようにも思います。たとえば、女性管理職の数値目標を設けることについて、どう思いますか。

最近、日本企業において女性の管理職を増やすことに関心が高まっていることを、私も実感しています。これ自体はよいことだと思います。ただし、これは、本当のダイバーシティを進めるためのファーストステップにすぎません。現状や目指すべき方向性について数字を把握することは大事ですが、数字は改革を加速するための道具にすぎません。数値目標を最終目的と考えてしまうことは、誤りだと私は思います。

また、ダイバーシティ推進が経営戦略に組み込まれず、人事任せになってしまうことも問題です。やはり、経営トップ自らが深く関与し、実践しなくてはいけません。

経営幹部が全社員と向き合う

――たとえばご自身は、どんなことを実践していますか?

日本で私が始めた取り組みが毎月の”Let’s Talk Session”です。私をはじめ経営幹部がP&Gジャパンの全社員と向き合う大事な時間です。半分の時間を会社の現状の共有に、半分の時間を質疑応答に充てています。

当初は「日本人はそんなに質問しないから、うまくいかない」と言われました。ところが、やってみると、ずいぶん厳しい質問が従業員から寄せられるようになりました。多様な意見を生かすためには、リーダーが「よく聞く」ことが大事です。従業員の意見や質問を聞くことは、私にとって大変重要なことなのです。

――社長の権威を重んじる組織ですと実践が難しそうな取り組みです。従業員から厳しい質問が寄せられたら、怒り出す社長もいるかもしれません。

社長がいつでも正しい答えを持っているわけではない、と思うのです。そして、それでいいのだ、と。私には私なりの意見がありますが、もし、私が答えられない質問が出たら、他の人が答えればいい。他人を巻き込みながら動いていくのがリーダーの役割ではないでしょうか。

――お話を伺っていて、P&Gのダイバーシティマネジメントは徹底した市場主義、実力主義と親和性が高いと思いました。ダイバーシティが進まない日本企業は、もしかしたら、やや社会主義的なのかもしれません。

確かに、ダイバーシティは社会主義とはまったくなじみません。私の祖国・チェコも、かつては社会主義でした。社会主義は人々を、皆、同じく平等に扱いますが、本当の意味でその人の能力や意欲を生かすことはなかったですから。

――ダイバーシティとともに語られることの多い、ワークライフバランスについて、ご自身の実践をお聞かせいただけますか。

経営者ですから、もちろん、忙しいですし、出張もあります。ただ、毎日、家族と一緒に夕食を取ること、子どもが寝る前に帰ることを自分の原則にしてはおります。そもそも、P&Gは、パフォーマンスやアウトカム、つまり仕事の成果で評価される組織ですから、長く働くことは是とされません。上司より長時間働くことが大事という発想はまったくないです。私自身がきっちり休暇を取っていますから、従業員も休暇を取ることに罪悪感を持たないと思います。

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