「少数派が発言する組織」が強い本質的な理由 P&Gが実践する「受容と活用」の凄み

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――べセラ社長は日本に赴任する前に、米・欧・アフリカなどさまざまな国でビジネスを経験しています。

はい。中でも面白かったのが、アフリカ・ナイジェリアでの経験でした。この国は人口が都市に集中しており、全人口1億7000万人のうち、2000万人弱が都市部に住んでいます。企業の収益も8割は都市で生み出される、といわれていました。ですから、私たちは当初、都市部に集中して事業を展開しようとしました。ところが、それは間違いだったのです。

メディアや調査レポートからはわからない「事実」を知っていたのは、農村部出身の社員でした。ある会議に、ナイジェリアの農村部出身の従業員が参加しました。彼の話によると、皆、都市でおカネを稼いで田舎に送金している、というのです。だから、消費は都市でなく田舎で行われるのだ、と。

今「え!」という顔をなさいましたね。「そんなこと、考えてもみなかった」と思ったでしょう。この話を聞いたとき、会議に参加していた人は皆、同じように思ったのです。そして、その農村出身の従業員の見立ては正しかった。私は彼に「話してくれて、ありがとう」とお礼を言いました。

都市にある大きな企業で働いていると、通常は都市部出身者がよく発言して、農村出身者は部屋の隅で話を聞くだけになることが多いのです。それでは、会議の参加者に多様性があっても多様性が生かされた状態にはなりません。ですから、マネジャーは「部屋の中で最もおとなしい人の意見を聞きなさい」というのがP&Gでの常識になっています。そこにこそ、新しいイノベーションにつながる発想が眠っているからです。

少数派がその特性を生かせないなら意味がない

――とても面白い実例だと思います。単に属性が違う人が「いる」だけでなく、その違いが「生かされる」必要がある、ということですね。

そのとおりです。大事なのは、単に「多様な人が集まっている」だけではダメということです。集まっているだけで、少数派が意見を言えずにその特性を生かせないなら、意味がないからです。

もう1つ、海外の事例を紹介させてください。私が勤務した南アフリカでの出来事です。国の人種隔離政策により、アフリカ系黒人やインド系の人々が差別されてきました。

近年は政策が変わり、さまざまな人種が一緒に働くようになりました。でも、黒人やインド系の人たちが、皆、白人のように振る舞ってしまうのでは意味がありません。それでは、多様性を生かすことはできません。それぞれの人が、自分の持つ文化や宗教ゆえの視点を、意見を述べることによって生かせることこそが、ダイバーシティの意義だからです。

そして、それは簡単なことではありません。だからこそ、ダイバーシティだけでなく「インクルージョン」が重要なのです。P&Gジャパンでは「インクルージョン」を「受容と活用」と翻訳しています。インクルージョンを進めることで、その人がその人らしくあることに尊敬を払うようになります。自分らしくあることを尊重されたとき、人は恐れずに自分の意見を言うことができるのです。

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