初マラソンで東京五輪のヒロイン候補として注目を集めた安藤だが、陸上界では高校時代から知られた存在だ。豊川高校では全国高校駅伝に3年連続で出場。2年時(2009年)と3年時(2010年)にはチームの主軸として活躍し、連覇を果たしている。
高校卒業後はチームミズノアスレティックに所属して、母校・豊川高校で練習を続けたが、2年で時之栖へ移籍。その後、2014年に現在所属するスズキ浜松ACへ移った。環境が変わるなかでも確実に成長して、昨年3月の世界ハーフマラソンでは日本人最高の10位に食い込んでいる。そして、初マラソンで衝撃デビューを飾った。下げ気味にした腕を振らない“忍者走り”は高校時代から変わらないが、サングラス姿の彼女は大人っぽくなった。
名古屋では、安藤と同学年のチームメートである清田真央も中間点を1時間10分46秒で通過。2時間23分47秒の好タイムで3位に入り、ロンドン世界選手権の代表入りが確実だ。スズキ浜松ACに所属する選手が大躍進したわけだが、そこに日本がマラソンで活躍するためのヒントがあるのかもしれない。なぜなら、スズキ浜松ACは企業を母体とするチームでありながら、実業団連合に加盟していない珍しいチームだからだ。
実業団駅伝に出場しないスズキの目標意識
スズキは女子実業団駅伝の冠スポンサーを務めるなど、昔から陸上競技と深くかかわってきた。全日本実業団男子駅伝(ニューイヤー駅伝)には40回の出場歴を誇る。しかし、2010年3月に実業団連合を退会して、陸上部をクラブ化。「スズキ浜松アスリートクラブ」として再出発している(以前のチーム登録名は「スズキ」だった)。
単にチーム名が変わっただけでなく、実業団連合を脱退したことで、実業団連合が主催する大会に出場することはできない。ほかの社会人チームが「全日本実業団駅伝」を最大目標とするなかで、スズキの社員アスリートは別の目標意識をもって、競技に取り組んでいるのだ。
駅伝がマラソンに悪影響を与えているのでは? という意見も少なくないなかで、駅伝をしないチームがマラソンで結果を残した。これは日本マラソン界の未来を考えるうえで、ターニングポイントになるのかもしれない。
駅伝をしないチームでいうと、廃部前のエスビー食品がそうだった。実業団連合に加盟しながら、会社方針で実業団駅伝には参戦しなかったものの、マラソンに挑戦する選手は少なかった。むしろ、上野裕一郎、竹澤健介ら主力選手は、都道府県駅伝や国際千葉駅伝に出場するなど、別のユニフォーム姿で駅伝を快走していた。
しかし、スズキ浜松ACの場合は大きく異なる。男子は現在所属している長距離9人中、全員がマラソンを経験。女子長距離(現在6人)は3000メートル障害をメーンとする三郷実沙希以外は24歳以下ということもあり、マラソン経験者は清田と安藤だけだが、若いふたりが世界へ羽ばたこうとしているのだ。
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