TOEIC 800点でも通じないグローバルビジネスの「壁」
コミュニケーションがとれないのは、英語力に問題があるからだという人がいるかもしれない。もちろん、基礎的な英語力は必要だが、原因はそこではない。
私自身、苦手だった英語を独学で勉強して、TOEICで800点超えしてからも、仕事ではなかなか外国人とコミュニケーションがとれなかった。英語ができなかったわけではない。だが、自分の意思が相手に伝わっている実感がなかったし、まして、英語で交渉なんて無理だった。
たとえば、準備した資料を基に、米国人にこちらの言いたいことを一生懸命伝える。相手はフンフン言いながら聞いている。だが、こちらがお願いしたことをやってくれない。「やってくれないと困る」と迫っても、肩をすくめて「君の状況はわかるけど、こちらもいろいろあってねえ」と自分の事情を延々と説明する。それならばと、こちらはまず聞き役に徹して、相手の言い分を全部聞いてから自分の要望を伝えると、「君はさっき、私の言ったことに同意したじゃないか。君が言っていることは支離滅裂だ」とツッコミを入れられる。そういうことの繰り返しだった。
相手の言っていることはだいたいわかる。こちらの英語も伝わっている。にもかかわらず、コミュニケーションが成立しない。「こうしたい」「こうしてほしい」という意思が伝わらない。思ったような成果が得られなかったのだ。
一方、当時の私の上司は、外国人との交渉でもまったく引けをとらない人物だった。頭がめっぽうよくて、ロジックにも強い。米国人が参加する会議でも臆することなく発言する。マシンガンのようにジャパニーズイングリッシュを繰り出し、米国人と交渉しても一方的に言い負かすことが多かった。それでいて、本社にいる外国人からの信頼も厚い。
ところが、その上司のTOEICの点数は600点台だったのだ。交渉に強いかどうかは、単純な英語力の問題ではない。ロジックがしっかりしていて、事実と論拠に基づいて自己主張すれば、相手も受け入れざるをえないのである。
しかも、その上司は「これを実現したい!」というものすごく強いパッションと使命感を持っていた。これだけそろえば怖いものなしだ。英語力がネイティブに多少見劣りしてもまったく関係ない。
グローバルコミュニケーションで必要なのは、単なる英語力ではない。誰でも納得できるわかりやすいロジックで相手を説得できるかが重要だ。そのことがわかってから、私も外国人とスムーズに意思疎通できるようになった。
英語力は相変わらずで、書くのも話すのもジャパニーズイングリッシュだ。ネイティブ同士の込み入った会話は、今でもなかなか理解できない。だが、今の私は、ビジネス英語で交渉して負けることはほとんどない。必ず当初の目標を達成している。それは、相手が納得せざるをえないようなロジックを組み立てることができているからなのである。
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