小1死亡事故、運転の88歳男性が不起訴の理由 「認知症」と刑事責任の関係をどう考えるか
横浜市港南区で2016年10月、集団登校していた児童の列に軽トラックが突っ込み、小学生ら7人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の容疑で逮捕された88歳の男性について、横浜地検は処分保留で釈放した。
報道によると、男性には認知症の疑いがあるが、これまで運転をやめるよう家族から注意されることも、認知症の通院歴もなかった。事故の発生を予見できなかった可能性があることから、捜査当局は不起訴処分を視野に在宅での捜査を続ける方針だという。
警察の調べでは、男性は2016年10月27日の朝に自宅を出発し、神奈川県内と東京都内の高速道に出入りを繰り返しながら断続的に走り続け、28日の午前8時ごろに事故を起こした。小学校1年の男子児童1人が亡くなり、6人が重軽傷を負った。
事故が不起訴となる可能性が高まっていることについて、責任が問えないのはおかしいとの声もある。背景にどんな理由があるのか。刑事事件に詳しい藤本尚道弁護士に聞いた。
近代刑法の大原則「責任なければ刑罰なし」
「たとえ刑罰法規に触れる行為をしても、精神障害等の事由によって『事理弁識能力(ものごとの是非善悪を判断する能力)』または『行動制御能力(その判断に従って行動する能力)』に問題がある場合には、刑罰について通常人とは異なる取扱いがなされます。
これらの能力がまったくない人は『心神喪失者』として処罰されませんし、その能力が通常人より著しく劣っている人は『心神耗弱者』として刑が軽減されることになります。
このような取扱いは、近代刑法の大原則である『責任主義(責任なければ刑罰なし)』という考え方に基づくものです」
藤本弁護士はこのように指摘する。今回のケースでは、検察が処分保留で釈放されたことで、不起訴の見通しが高まったとされているが、どんな点がポイントになったと考えられるのか。