2016(平成28)年3月1日、世間の関心を集めた認知症患者の鉄道事故に関する最高裁判決があった。それに先立つ地裁と高裁の判断も異なり、最高裁がどのような判断を下すか注目されていた事案である。
これは、2007(平成19)年12月7日、東海道本線共和駅で発生した鉄道事故の裁判である。認知症患者A氏(要介護4、認知症高齢者自立度Ⅳ)が線路に立入り走行してきた列車にはねられたことにより、JR東海がA氏の遺族に対して、振替輸送費等の損害賠償を請求する訴訟を提起していた。
これまでの経緯は
ここに至る前の訴訟の経緯について今一度見てみる。
まず、一審の名古屋地裁は、認知症患者A氏の妻と長男に対して請求額約720万円全額の支払いを命じる判決を出した。これに対し、二審の名古屋高裁は、長男に対する請求を退け、A氏の妻にのみ損害賠償の支払いを命じ、かつ請求額の半額約360万円のみの支払いを命じた。
責任主体を妻だけに認めた理由は、妻は同居をして現実に介護を行い、日ごろのA氏の行動を制御できる立場にあるから監督義務者としての義務があり、かつその義務を怠らなかったとは言えない一方、長男は介護方針を決めることに関与はしていてもA氏の介護に日頃関与していたわけではないから、とされた。
また、賠償すべき金額を半額にした理由は、妻の経済的状況、JR東海の規模、鉄道の性質などを勘案したうえ、JR東海がA氏の線路への進入路とされたフェンス扉の施錠を十分にしていなかったことを挙げ、損害の公平な分担を図るため、とされた。
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