認知症患者の鉄道事故裁判、「逆転判決」の理由 最高裁の「家族に責任なし」のポイント

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今後の課題といっても、本件のような不幸な事故が再び起きて司法の場に持ち込まれる前に、重度の認知症患者の介護の在り方、特に第三者に対する加害行為防止のあり方を議論する必要がある。

2025(平成37)年には認知症患者が700万人にも達するという推計もある中、そして、厚労省が「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」のもと、認知症患者が可能な限り住み慣れた地域で生活を続けていくための整備をするとしている中、特に症状の進んでしまった認知症患者の介護の在り方、社会内における対応の在り方を、行政も立法も社会も真剣に考えることがより一層望まれるところである。

鉄道の安全対策も課題に

最後に、鉄道事業者からの視点についても述べておきたい。

事故が起きている以上、責任や過失の所在はさておき、認知症患者の行動によって事故が惹起され、鉄道事業者が損害を受けたという事実は動かない。事故態様によっては、逆に安全確保が不十分であったという理由で、認知症患者の遺族から鉄道事業者が賠償請求を受けるという事態もあり得る。

危険を内包する高速度交通機関の事業主として、一層の安全確保に努めることが鉄道事業者の社会的責務であることは理念や目的として理解できる。しかし、走行している列車と人の接触を100%隔絶することは不可能に等しい。それでも、事故による損害を事業者自身が負担しなければならない可能性があるとしたら、費用対効果の問題はあるものの、鉄道事業者としてはより100%隔絶する方向で対応せざるを得なくなる可能性もある。

乗降客数の多寡にかかわらず全駅にホームドアを設置し、線路も全て連続立体交差にすれば本件のような不幸な事故はなくせるかもしれない。しかし、線路敷地内外を遮る遮蔽物がなく簡単に認知症患者が線路敷地内に立ち入ることができる箇所は全国津々浦々多数存在する。既存の鉄道すべてに対策しようとすると巨額の投資が必要であるし、特に経営基盤の弱い鉄道では無理な話であろう。

利用者に投資分を転嫁したり、税金を投入したりするといっても限度がある。経営基盤が脆弱で余力が少ない鉄道事業者における安全対策強化をどのように進めていくかということもあわせて、今後議論が必要であろう。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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