認知症患者の鉄道事故裁判、「逆転判決」の理由 最高裁の「家族に責任なし」のポイント

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最高裁の判断は、認知症患者を主体とする事故での親族の責任のあり方に一つの判断を示した(写真:kaka/PIXTA)

今回の最高裁の判断は、認知症患者が起こした第三者に対する加害行為について監督義務者(と同視できる者)の地位を認めるためには、単に法令上監督義務がうたわれているだけでは足りず、「現実に具体的に加害防止のための監督ができるかどうか」という視点から具体的に判断するということを示した点で重要といえる。無理を強いない、という点では、より現実に即した判断ということもできよう。

今回の判断では、妻を法定の監督義務者(と同視できる者)としたうえで、妻が「監督義務を怠ったとはいえない」として免責する手法もあったと考えられるが、そもそも法定の監督義務者(と同視できる者)の地位を認めなかったという点は注目される。

認知症患者が主体となった事故の責任のあり方、特に介護に関わっていた親族の責任のあり方について、司法として一つの判断を示した重要な事例ということになろう。

また、詳細は割愛するが、裁判官による補足意見や意見が3つ加えられている。いずれも監督義務について示唆に富む意見であり、今後の議論の参考になろう。

もし妻が「監督義務者」だったら?

そうはいっても、もちろん、すべての認知症患者を主体とする事故に今回の最高裁の判断が直ちに当てはまるわけではない。仮に本件で、妻が要介護認定を受けておらず、相当濃密にA氏の介護を行っていた場合、法定の監督義務者と同視されていた可能性もある。

高齢の妻でなく、若年の子どもが介護を引き受けて毎日面倒を見ていたような場合も監督義務者と同視される可能性もあろう。

このように親族等の誰かが監督義務者と同視された場合、どこまで具体的に監督していれば監督責任を免れることになったのかという点については今回の最高裁判決の射程外である。

また、認知症患者を主体とする事故の損害をどのように分担するかの判断要素も最高裁としては示されなかった。妻が監督義務者と同視できず、そもそも損害賠償責任を負わないとされる以上、そこまでの判断に至らないのは当然であるが、これは今後の課題であろう。

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