第一人者が語るドキュメンタリー映画の変化 主張抑えたフィクション風の作品に高い評価

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『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』はBunkamuraル・シネマほか全国順次公開中だ©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma
ドキュメンタリー映画といえば、社会問題を浮き彫りにするために、取材や証言インタビューを多く盛り込む作品をイメージする人が多いだろう。「映画をとおして、社会に訴えたい」そんな主張がスクリーンからにじみ出てくる。しかし、世界的に目を向けてみると、ドキュメンタリー作品でありながらも、どこかフィクションのような手触りを感じさせるような作品が目立つようになった。
2016年度のベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を獲得した、ジャンフランコ・ロージ監督の最新作『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』は、そんなあらたなドキュメンタリー作品の潮流を象徴するような作品だ。
舞台となるのは、イタリア・ランペドゥーサ島。ここは北アフリカから最も近いヨーロッパの領土だが、実はアフリカや中東からの多くの難民が目指す場所となっている。しかし、その多くが小さな船で航行するため、ランペドゥーサ島沖での海難事故が多発。イタリア政府は、軍や沿岸警備隊が地中海をパトロールし、難民を救出しようと試みているが、予算の問題で作戦の規模を縮小せざるをえないという問題も出ている。
作中では、過酷な海の旅を経て島に侵入しようとするような難民たちの緊迫した瞬間が映し出される一方で、島民の側に目を向ければ、島の子どもたちが遊び回り、老婆は刺しゅうに針を通し、ラジオからは音楽が流れるなど、どこにでもある日常があった。そして両者は決して交わることはない。島民の穏やかな日常と、難民をめぐる状況が詩情豊かに描かれ、ドキュメンタリー作品を観ているはずなのに、まるでフィクションの映画を観ているような不思議な感覚に陥る。
なぜドキュメンタリー作品にこうした手法を使うのか? 今年の1月、同作プロモーションのために来日していたロージ監督に話を聞くことができた。

ドキュメンタリー作品がベルリン国際映画祭の最高賞

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2014年秋、ロージ監督は国際映画祭で上映するための10分の映画を撮るためにランペドゥーサ島に上陸したという。「芽を吹き始めている移民・難民問題に対して何もせず、ゆがんでいて、混乱した見方しかできていないヨーロッパに対して、ランペドゥーサ島の違った側面を撮るのがプロデューサーの意図だったし、僕の意図でもあった」と、ロージ監督はその目的を語る。実際に島に訪れて、テレビのニュースが生み出した非常事態、移民の侵入、移民の流入に反対する右翼活動家のデモといったステレオタイプなイメージだけでは単純にとらえきれない複雑さを感じたという。

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