日米の「対中姿勢」には深刻な温度差がある トランプ政権は米中融和を目指す可能性

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なお、昨年9月21日付の人民網日本語版は、「中国の自衛隊が南中国海で米軍の実施する『航行の自由』作戦に参加した場合、中国の譲れぬ一線を越えるものであり、中国側は断じて容認しない」と述べている。

中国側も東シナ海で軽々しい活動をすべきではないのと同様、日本側も南シナ海での挑発活動をすべきではないだろう。

安保条約第5条は金科玉条か

トランプ大統領はオバマ前政権の安保政策を引き継ぎ、尖閣諸島に日米安全保障条約の第5条が適用されると明言した。しかし、この第5条が尖閣諸島に適用されるからといって、米軍がいつ何時でも助けてくれるわけではない。

この尖閣諸島への防衛出動が可能となる条件の敵側の「武力攻撃」について、日本政府は「組織的計画的な武力行使」と定義してきた。つまり、中国軍ではなく、偽装漁民などが突如尖閣諸島に上陸するような場合、それが「組織的計画的」と判断するのは難しいかもしれない。そうなると、自衛権の行使ができない可能性がある。

この点について、民進党の長島昭久衆議院議員は14日の衆議院予算委員会質疑で、「ある国が尖閣に対して、国家として正規軍を使って武力攻撃に及ばないかぎり、わが国の武力攻撃自体を認定できないし、自衛隊が動くこともできない。自衛隊が動かなければ米軍も動けない」と指摘した。

森本氏も、前述の番組で、「武力攻撃とは何かといえば、計画的、組織的武力の行使とわが方は定義している。そういうことを中国がやるだろうか。やらないだろう」と指摘。「第5条が適用されるから、アメリカがなんでも助けてくれると思っているのは間違い。条約にはそういうことは書いていない」と述べ、日本独自の抑止力の向上や防衛力の整備を説いた。

ひるがえって、アジア太平洋地域での恒久平和をいかに追求していくか。東アジアでは、挑発が挑発を招き、軍拡が軍拡を呼ぶ「安全保障のジレンマ」に陥り、かえって地域の安定を損なってきた面がある。これを避けるためには、トランプ大統領の会見での発言どおり、事態のエスカレートを止めるべく、やはり日米中の指導者が率直に対話を重ね、信頼を醸成することが鍵だ。ほかのアジアの国々は、日米中が対話を進めることが地域の緊張緩和につながると歓迎している。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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