「夫が率い、妻が続く」夫婦関係は永遠でない 夢の脱サラ晩婚カップルにじわじわ異変

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正隆さんに押し切られる形で退職し、一緒に飲食店を始めた幸子さん。おカネを節約するため、正隆さんの祖父母の家に同居させてもらうことにも賛成した。今どき珍しいほどの「尽くす妻」である。しかし、結婚してから幸子さんは少しずつ変わり始める。

「職場が別だったら、『彼のほうが多分忙しい。妻の務めを果たそう』と思っていたかもしれません。でも、店では彼と同じ量の仕事をやっています。私だけが家事をやることが不公平だと感じました」

おっとりした雰囲気を漂わせる幸子さん。優しい印象が強いだけに、「不公平」という強い言葉を発されるとびっくりしてしまう。おそらく正隆さんはもっと驚いたはずだ。そして、2人は話し合った。

「家事は一生懸命にやらないことにしたんです(笑)。だから、家は散らかり放題。彼の身の回りの世話だけはおばあさんがしてくれます。私は何もしない嫁だと嫌みを言われていますけどね」

「8年後にニューヨーク店!」という妻の野望

退路を断って開店した正隆さんと幸子さんにとって、お店は生活の糧でもあり、夢そのものともいえる。ほかのことを構っている余裕はない。幸子さんは店舗経営に関しても意外なほどの強さを発揮している。1号店の開店2周年を待たずして次の店を開き、現在は3号店まで手掛けているのは幸子さんの意向である。

「正隆さんは安易に手を広げると失敗すると言っています。でも、私はステップアップしていきたい。1つの店だけでは席数も限られているので売り上げの天井が見えてしまうんです。私はそれで終わるつもりはありません。今の目標は8年後にニューヨーク店を出すことです」

開店当初は幸子さんを半ば強引に引っ張っていた正隆さん。現在は、先を急ぎすぎる幸子さんを押しとどめる役に回っている。ただし、正隆さんは役割分担の変化を受け止めきれていない。情報誌などでお店が紹介される際、正隆さんだけがオーナーとして登場することが多い。幸子さんは不満だ。

「私も一緒に頑張っているのに、彼のお店として紹介されて、私のことは一言も触れていなかったりします。尽くすつもりで結婚したのですが、私はそういうタイプではなかったみたいです。むしろ、グイグイと前に出たい(笑)。頑張っていることに評価もしてほしいし、見返りも期待しちゃいます」

今回のインタビューも正隆さんに申し込んだ。しかし、はっきり言えば、正隆さんよりも幸子さんのほうが話は面白かった。正隆さんは情熱的だが心配性で、いろんなことに気を回して発言もあちこちに散らかりぎみだ。幸子さんのほうはシンプルで、楽観的で、自分の言葉がある。控えめなように見えて、周囲からどう思われるかをあまり気にしていない。「また会いたい。もっと話を聞きたい。今後も楽しみ」と他人に思わせる何かがある。

正隆さんに提案したい。いっそのこと今後は幸子さんに引っ張ってもらい、正隆さんはきっちり支える側に回るのはどうだろうか。それは決して格好の悪いことではない。やんちゃなところがある正隆さんが一歩身を引くことを覚え、幸子さんの実力をきちんと認めたとき、2人の仕事と結婚生活は快調に回り始める気がする。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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