優等生の「日本円」はトランプに苦しめられる

意外?米国はメキシコと本気で喧嘩できない

なお、ここにきてトランプ大統領の日本批判が先鋭化しているように見える一方、メキシコ批判は当初に比べればトーンダウンしているようにも見える。メキシコから米国への輸出同様、米国からメキシコへの輸出(2016年で、2118億ドル)も相当に大きいため、報復合戦となれば米国も相当な「返り血」を浴びることになると気づいたのかもしれない。

同様に、EU向けの輸出(2914億ドル)もメキシコを凌駕するほど大きく、米国が本気でけんかすることを躊躇するかもしれない。一方、米国は中国や日本からの輸入こそ大きいものの、両国向けの輸出は小さい(それぞれ1041億ドルと576億ドルでメキシコ向けの半分から4分の1程度だ)。本気で戦うつもりだとしたら、自身のダメージが限定されるだろう相手を選ぶのは当然である。

現実に目をやれば、本邦の大手自動車会社3社を例に取ると、3社とも海外生産比率のほうが高く、しかもその中心は北米である。また、対米自動車輸出台数は1980年代の自主規制時並み(170万台前後)である。長年、米国への輸出攻勢で日本が雇用を収奪しているという主張は、やはり理不尽さがにじむ。

だが、人民元の下落を必死に防いでいる中国を指差して「(通貨安を希求する)為替操作国だ」と述べているのを見るかぎり、トランプ大統領の思い込みは簡単には修正されそうにない。繰り返しになるが、トランプ大統領の通商政策の評価軸は「対米貿易黒字が大きいか、小さいか」に尽きる。

日本側の意図にかかわらず対米貿易黒字の削減が進められていくのだとすると、今後想定すべき展開はある程度絞られてくる。貿易収支の調整経路は、(1)数量か(2)価格の2つしかない(むろん、両方でもいい)。

過去を振り返れば、日米自動車交渉の最中、1981年に日本が行った輸出自主規制は典型的な(1)に類する動きであり、1985年のプラザ合意は為替を通じた(2)に類する動きである。現在に目をやれば、トランプ大統領が就任前後から米国内での生産を強要しようとしている動きは(1)に、海外での生産に罰金をかける可能性を示唆したり、ドル高に不満を漏らしたりしている行為は(2)に類する動きと考えられる。

長い政府間交渉が必要な(1)に比べれば、最も手っ取り早いのは為替相場に口先介入して(2)の調整経路に働きかけることであろう。そもそもトランプ大統領にしてみれば、就任時点からドル相場は歴史的な高値でスタートしており、この事実を使わない手はない。

誤解を招きかねない政策運営の危うさ

今後、優等生の円が最も警戒すべきは、トランプ大統領による日銀の金融政策に対する言動である。現段階で金融政策にまで制約をはめられたら、円は通貨高圧力に対してあまりにも無防備となってしまう。従来、G7/G20の議論では「自国経済の安定を目的として講じた金融緩和による通貨安は不可抗力」といった暗黙の理解があった。

だが、トランプ大統領にそのような理解を期待するのはどうやら難しそうである。1月31日に見られた「他国は資金供給(money supply)と通貨安誘導で有利な立場にある」との発言の真意はいま一つはっきりしないが、おそらく金融緩和への苦情なのだろう。すでに、日銀の金融緩和が「ロックオン」されているのだとすれば、今後の日銀はいかにトランプ政権の「虎の尾」を踏まないかに配慮せざるをえない。

たとえば、1月から見られているような不要不急のオペの微調整で為替相場にさざ波を立てるような行為は、極力避けたほうが無難である。日銀としてはそのつもりがなくても、結果として為替が動けば言い逃れが難しくなる。一度、目をつけられれば、トランプ大統領の溜飲を下げるために長期金利のペッグ水準引き上げなど、引き締め的な対応を検討する羽目になる可能性もなくはない。

しかし、2月3日の指し値オペ実行の前後から、従来は債券市場でしか材料視されることのなかった日銀オペの一挙手一投足が為替市場でも話題になるようになった。この点、表舞台から上手く消えていたい日銀としては、抜かりがあったとしか言いようがない。

真の正当性がどこにあるにせよ、歴史的に見れば、変動為替相場制の潮流は基軸通貨国の意向で決まることが多い。意図せずに米国の不興を買ってしまえば、無為に世界の通貨高圧力の按分が円に押し付けられるような事態になりかねない。

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