優等生の「日本円」はトランプに苦しめられる 意外?米国はメキシコと本気で喧嘩できない
今回の本欄ではユーロを主題にしないが、この批判はトランプ大統領の日本への批判と比べれば圧倒的に正当性があり、ドイツも対応に苦慮することになるだろう。今後、「悪の枢軸」のごとく指差された4カ国の通貨はトランプ大統領の直情的な言動に振り回されることになろうが、筆者が心配しているのは、その「振り回される程度」に差が出てくるだろうという点である。
円は「優等生」だからこそ、安心できない
まっとうに考えれば、トランプ政権の通商政策で目の敵にされそうな中国、ドイツ、日本、メキシコの通貨は対ドルで下落しにくい通貨となる。ちなみに、ドルの名目実効為替相場を見た場合、最も大きなウエートを占めるのが中国(21.7%)で、これにユーロ圏(16.6%)、カナダ(12.9%)、メキシコ(12.5%)が続き、日本(8.0%)は相対的にみれば小さいことがわかる。
つまり、「悪の枢軸」のごとく名指しされている国の中でも、円の存在感はそれほど大きいものではない。たとえば2014年1月以降の約3年でドルの名目実効相場は+24.3%上昇しているが、これに対する寄与度が最も大きいのがメキシコペソの+4.6%ポイントであり、次にユーロの+3.9%ポイント、人民元の+2.8%ポイントが続く。この3通貨だけで過去3年のドル高の半分を説明できる。
他方、円は、前述したとおり、ドルの名目実効相場に占める割合は小さく、ドル高への寄与という意味でも他の3通貨とは比較にならないほど小さい(上述した例ではわずか+0.8%ポイント)。正直、これらの国々と比較され敵対視されることは日本からすれば納得がいかない。しかし、トランプ大統領に正論が通用する雰囲気はない。ドル相場における円の影響力が微小なものであるとしても、「対米黒字→許せない→円高」という安直な三段論法でドル/円相場が押し下げられる可能性はある。
このうえで、名指しされた国の通貨の中で円はそもそも優等生であるということが気掛かりである。
苛烈な資本流出に悩む人民元やトランプノミクスによって実体経済の勢いがそがれているメキシコペソは、ファンダメンタルズに照らせば通貨安になる道理がある。ユーロに関しても、世界最大の経常黒字を備えるとはいえ、2017年に限っていえば、慢性的な政治リスクが重しとなろう。
これに対し、政治リスクが低く、実体経済は堅調、大きな経常黒字を稼ぎ、世界最大の対外純資産を保持し、低めの物価水準を維持している円の盤石さは際立つ。名指しされる4通貨の中で対米貿易黒字が特に大きいわけでもなく、実効相場におけるウエートも最小だが、優等生ゆえに買い通貨として目をつけられやすく、トランプノミクスの下で「理不尽な円高」にさらされる可能性は高い。
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