対中問題は、トランプ政権におけるもうひとつの悩みの種である、北朝鮮とも絡んでくる。トランプ大統領自身も、中国の南シナ海における活動を強引に抑止する行為は、中国と北朝鮮の関係強化につながるのではないかという懸念は抱いているようだが、一方で中国に対する強硬な姿勢を示すことは、中国と北朝鮮の関係強化を阻止する効果をもつという専門家もいる。実際、トランプ大統領がどのような北朝鮮戦略を描いているのかの答えのヒントを得るには、2月10日に予定されている日米首脳会談を待たねばならないだろう。
となると、今回のマティス国防長官の役割は前述のとおり、日本と韓国との同盟国関係を再確認すること、すでに動いている計画を推進することにとどまるだろう。実際、国防総省によると、マティス国防長官は何か具体的な計画や期待をもって日韓外交に臨むのではなく、むしろ米国の長年の日韓政策を再確認することのみを求められている。
バノン首席戦略官との対立も
マティス国防長官が「動きにくい」もうひとつの理由は、トランプ大統領との関係にある。マティス国防長官は先週、トランプ大統領が国防長官の任命式の取材に集まった報道陣の前で、移民と難民に関する大統領令を発表したことに怒り狂った。
大統領令について何も知らなかったマティス国防長官が右の背後に承認を与えるような格好で立っている状態で、トランプ大統領は国防総省や米国だけでなく、全世界で批判的な反応を引き起こした政策を進め、マティス国防長官の「晴れの日」を台なしにしたのである。
トランプ政権は目下、縄張り争いと政策の支配権をめぐる争いが起き始めている状態であり、マティス国防長官は自らの声がホワイトハウスの職員たち、特に米国の伝統的な価値観をもっている共和党主流派とはまったく異なる政策計画をもっているスティーブ・バノン首席戦略官によってかき消されてしまうのではないか、という懸念を抱いている。
バノン首席戦略官は、特にアジアに強い興味を示して多くの人を驚かせ、トランプ政権内のアジア関連の政策について無視できない影響力をもつ可能性がある。実際、バノン首席戦略官は「ダークすぎる」と話題になったトランプ大統領の就任演説の草稿や、移民に関する大統領令にも深くかかわっていると伝えられている。
今回のマティス国防長官の訪問により、日米、米韓関係はいったん落ち着きを取り戻すことが期待される。しかし、今後アジア戦略においてバノン首席戦略官が一段と影響力を及ぼすようになれば、マティス国防長官によって再確認された同盟関係も、関係の変化を求められることになりかねない。
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