視聴スタイルとともに視聴率が変わり始めた 世帯視聴率だけではもうテレビを語れない!

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そしてもうひとつの分散化が動画サービスでの視聴だ。これについては2015年のTVer登場など、テレビ局側はすでに対応をしてきた。だが、まだまだ違法にアップロードされた番組を見るユーザーは、特に若者に多い。彼らは悪びれることなく、「テレビ持ってないけどテレビ毎日見てます!『アメトーーク!』大好きです!」とあっけらかんと言い放つ。そして自分の見たいシーンだけをうまく検索して視聴している。こうなると視聴の「断片化」にまで至っている。

テレビは意図せずして、すっかり分散型メディアになってしまっていた。それなのにリアルタイム視聴のデータしかなかった。TVerを立ち上げたことに続いてタイムシフト視聴率を調査し始めたことは、そんな意図せざる状況をこちら側でコントロールしていく流れなのだと言える。拒んでばかりいても仕方ないという、発想の転換が放送業界で起こりつつあるのだ。

「放送」が時代に合わなくなってきた

テレビの視聴スタイルを激変させたのはもちろんスマートフォンだ。07年に誕生したスマートフォンは一部の新し物好きの持ち物だったのが、16年には日本での普及率が7割に達したという。もはや、お年寄りも使うくらい普通のモノになった。そして少し前まではテレビのセカンドスクリーンだったスマホは、いまや老若男女のファーストスクリーンだ。

そこで露呈してしまったのが、「放送」の不便さだ。特定の時間に自宅(のリビングルーム)にいることを求められるテレビ放送は、不親切きわまりないメディアとなってしまったのだ。これまでは、何の疑問もなく受け入れていた「放送」という形式が、スマホを人々が手に持つことにより、なんともめんどくさいものになってしまった。一方で、テレビは相変わらず楽しく面白い良質なコンテンツを送り出している。決して人々がテレビ番組を嫌いになったわけではないのは、重要なポイントだと思う。

こうした状況のなか、タイムシフト視聴や見逃し配信サービスを、リアルタイム視聴を促進するためのものだと決めつけるのはあまりにも後ろ向きだ。分散型メディアの効用は、たったひとつの自社サイトに人を集めることが目的ではなく、どこでアクセスしてもOK!という発想の転換にある。見逃し配信サービスではすでにCM枠のセールスがそれなりに好調だと聞く。タイムシフト視聴のマネタイズはこれからの課題だろうが、困難を乗り越えて具現化すべきなのだ。

「カニバる」と放送界の人はよくいう。見逃し配信サービスを促進するとリアルタイムで見てくれなくなるとか、見逃しとタイムシフト視聴はカニバるから見逃しはもうやめようとか、そんな意見をよく聞く。

そういう考え方は修正すべきだ。録画再生を好む人もいれば、見逃し配信が便利だと思う人もいる。オープンにするほど視聴は広がるので、それぞれのマネタイズを実現するのが分散型メディアの考え方だ。少なくとも今は、蛇口を開けるだけ開けていく時期だと捉えて、前向きに対処すべきだと思う。

現状では、見逃し配信のCM売り上げはリアルタイム視聴の広告収入と比べると話にならないほど小さいかもしれない。それが5年後、10年後にどう変化するのか、予測して対処するのがこれからのテレビ局の進むべき道だと思う。

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