もの申す脚本家が「恋妻家宮本」に込めた思い 「家政婦のミタ」遊川和彦が映画監督デビュー

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――50代になって子どもが巣立ち、いざ夫婦が2人きりになったらどうするの?という人は多いと思います。資料には「新しい夫婦のあり方を提示したい」とありましたが。

自分としては、「夫婦のすばらしさ」というのは入り口であって、それよりも(重松清の)原作にもあった「正しいことより優しいことのほうが大事」というテーマを伝えたい、という思いの方が強かったですね。そのキーワードがなければ、この話には乗らなかったと思います。

――「優しさが大事である」という部分がポイントだと。

優しさこそ、この世界でいちばん大事なことだと思います。それは今、人間が失いかけている感情で、自分さえよければいいという人が増えています。これからもどんどん増えていくでしょう。そういう人に対して何も言えないし、そういう人に乗っかる人もどんどんと増えています。そんな世の中だからこそ、この重松さんのすばらしいメッセージを伝えたいと思った。ただし、メッセージを大上段に振りかざしても、誰も聞いてくれないので、夫婦の物語として描いたということです。

テーマは"正しさよりも優しさ"

宮本夫妻を演じる天海祐希と阿部寛 ©2017「恋妻家宮本」製作委員会

――「正しさよりも優しさ」というテーマは、現代にこそ響きます。

やはり悪口のほうが面白いじゃないですか。人をたたいて、みんなで面白がるというのは、人間のいちばんみっともない部分として身近にあります。でもそれに抵抗するのは、人間の自制心しかない。本当に大変な時代になったなと思いますが、そんな世の中に抵抗をするために、この映画を作ったのです。優しい人がひとりでも増えることが願いとしてありますね。

――以前の遊川さんの作品だと、厳しさを突きつけた先に優しさがあったように思うのですが、近年の作品では優しさの描き方が変わってきたように思います。特に本作ではそれが顕著だと思うのですが、何か心境の変化があったのでしょうか?

人間の考える力、想像する力が、どんどん弱くなっています。それはやっぱり忙しいからでしょう。大量の情報にあふれ、ひとつのことをじっくりと考えるヒマがない。今まではキツいことを言っても、その後で、「どうしてああいうことを言ったのだろう」と考えてもらえるだろうなと思っていた。でも今はそんな時間すらありません。だから表現もわかりやすく、ストレートになっているのでしょう。

やはり人間が考えたり、想像したりしなくなったらおしまいだと思うんですよ。でも今は、「そんなことはいいから早く答えをくれ」と言われます。その答えを聞いて「わかりました」と言うけど、それはわかった気になっただけで、自分の根っこにはなっていない。それがこの時代を厄介にしているというか。頭ばっかり発達していて、体力がないというか。

それでは優しい時代になるわけがないですよね。だから少しでもストレートでわかりやすいドラマにして、「立ち止まってみよう」「考えてみようかな」「悩んでもいいんだ」「失敗してもいいんだ」といった考える余地を残したいと思っています。結果的に、そんな人が増えてくれればいいなと思っているんです。

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