(第9回)新卒技術職・研究職の深刻な「採用」氷河期の到来

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 技術職・研究職として就職することに対する魅力の低下は、理系人材の文系就職者の割合の急増という形で現れている。彼らは、その論理的な頭脳、専門分野に対する知識を生かして、投資銀行や、戦略コンサルティング会社、ITコンサルティング会社へと就職していく(それらの会社は積極的に理系人材の採用に取り組んでいる)。私が出会い、文系就職をしてきた理系学生の声を紹介しよう。

 「研究は好きです。ただ、研究って10年、20年やって成果が出せるかどうかわからない仕事なんです。自分の成果が短期間で見えやすいコンサルティング会社で、側面から技術者や研究者を支援するような仕事をしようと思っています」(戦略コンサルティング会社内定Aさん)

 「日本の技術って世界でトップクラスという割には、技術者の給与水準って低いじゃないですか。OB・OG訪問した人たちは皆、自分の仕事を誇りにしていて素晴らしいと思います。けれど、やっぱり金融だったら世界トップクラスの人材は何千万、何億という年収をもらっているわけです。少し待遇に差がありすぎるような気がします。金融の分野で技術に強い会社を支援しますよ」(投資銀行内定Bさん)

 「週6日、1日の大半を研究室で過ごすという生活を2年間続けてきました。推薦は豊富にありましたが、同じような仕事を続けたいとも思いませんでした。就職活動はほとんどできませんでしたが、5、6社回ったうちの1社に決めました。少し別のことをして、広い世界を見たいと思っています。」(ITコンサルティング内定者Cさん)

 彼らはすべて実在で、しっかりと研究に取り組んできた好人物達だ。文系就職を希望する学生の代表的な声として紹介した。
 彼らは技術や研究が嫌いなわけではない。しかし、

・仕事の成果が目に見えにくい
・待遇に差がある
・研究に没頭する生活を続けてきたので他の世界を見たい

そんな思いを抱えている。

 現在、企業の技術職・研究職としていきいきと活躍されている方は、彼らの悩みが実感として沸きにくいことと思う。仕事の成果はたとえ一部であっても「製品」という形で世の中で利用されるようになるし、目先の収入よりも、安定し、研究に没頭できる生活のほうが大切だ。他の世界なんて、研究しながらでもいくらでも見ることができる。そう考える方も多いのではないだろうか。入社してその事実に気づく理系人材も数多くいる。しかし、実際は技術職・研究職として入社する前に別の進路を選ぶ学生が増え続けているのだ。

 若く、チャレンジ精神に溢れた若者にとっては、画期的な新製品や社会に役立つ商品を生み出し、ヒーローになりたい。能力に見合った収入を得たいという気持ちはあって当然のものだと思う。
 企業は技術者・研究者を育て、称えるような組織・風土が作れているか。一流の技術者に一流の報酬を持って遇する制度が整えられているか。それを今一度問い直してみるところからはじめなければ、優秀な技術者・研究者の採用問題は解決されないだろう。

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