福井信英
前回のコラムでは、
「たくさん集めて、たくさん落とすほうが採用支援業者は儲かる」
「その事実が巧みに隠されているので、企業・学生双方が不幸になっている」
という、なかなか表立って語られない新卒採用活動の負の側面について述べた。
私自身は、社会にはより良い方向に向かおうとする自浄作用があると信じている。伝統や歴史が非常に大事であることは間違いないが、時代に合わない不自然な歪みや、正しくない提案、事実の隠蔽などは、どれだけ現状を維持しようと頑張っても、いつか拒絶される時がくる。
アカデミー派の画家たちが印象派の画家を潰しきれなかったように。
帝国主義・社会主義が崩壊し、資本主義の時代が訪れたように。
テレビがインターネットの登場により視聴時間低迷を招いているように。
大量消費型の社会から、環境共生型の社会が求められているように。
就職活動や採用活動もきっとそうで、一定のスパンで、過去の成功体験が現在の失敗体験に切り替わる時期がやってくる。「たくさん集め、たくさん落とす」採用活動の提案をやめ、自分自身を変革していかねば、採用業界に身をおく企業も存在価値を失っていくと思う。
私自身も過去の成功体験に拘泥しないように自分自身を革新させ続けなければいけないと強く思う。
さて、本題。
たくさん集め、たくさん落とす採用活動が正しくないとすれば、当然次に出てくる問いは、
「実際、満足のいく学生1名の入社を決めるのに、何人と接触すればよいか」
というものだ。これに関しての模範解答は
「1人と接触して、満足いく学生を1人採用できれば、それが一番いい」
だと思うが、99%以上の企業は、そこまで完璧なマッチングができていない。
では現実的なところでいうと、100人と接触すれば1人いい人を採用できるのか。それとも1000人と接触しなけれならないのか。採用という仕事に興味を持ち始めてから、その答えを知りたくて、人事の方、業界他社の人に会うたびに、この質問を投げかけてきた。
1000人と会って1人しか採用しないことを誇りにしている人もいれば、10人と会えば1人採用できると誇らしげに話している人もいた。
どのようなシチュエーションで学生と接触するかが大きな問題ではあるが、少しでも真実に近づきたくて、ジョブウェブでは2009年3月に卒業する学生(すなわち今年内定をもらった学生)を対象に独自の調査を行った。それは、
「企業が行っているオープンセミナー(※)から採用に至る率はどれくらいか」
というものだ。
結果、いくつかの興味深い事実が明らかになったので、ここに記したい。
1) | 4割弱の学生が、大学3年、院1年の夏休み以前に就活を開始している。(調査結果) |
→ 就職活動の早期化 | |
2) | 6割の学生が、年内に「第一志望の内定先」と接触している。(調査結果) |
→ 志望企業・業界の決定の早期化 | |
3) | 参加したセミナーが満足するものだった場合、6割の学生が選考に進み、7%が内定に至っている。(調査結果) |
→ 10~12月に行われる「満足度の高い」セミナーからの平均的な内定率 | |
4) | 「満足度の高い」セミナーとは、その企業の仕事を体感できるタイプのものが最も多く32%、次が自己分析対策で21%。(調査結果) |
→ 仕事体感・自己分析・業界理解などのテーマが高人気。 | |
5) | セミナータイプ別に内定に至る率を出すと、仕事体感型は8割が選考に進み、11%が内定。自己分析対策型は4割しか選考に進まず、内定は3%。(調査結果) |
→ セミナーの中身によって、選考に進む率・内定に至る率が大きく異なる。 |
このような興味深い関係が「セミナー」と「採用」の間にあることが見て取れる。
しかし一方で、
「こんなに就職活動が早期化してしまっていいのだろうか。学業はどうなる?」
と疑問に思われる方も多いことだろう。
※主に10~12月に企業が選考と関係なく(あるいは関係ないという触れ込みで)行う、仕事体感、企業理解、自己分析等をテーマにしたセミナー。
トピックボードAD
有料会員限定記事
キャリア・教育の人気記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら