GDPには「売春」もカウントしていいのか 「経済成長を図る物差し」GDPの限界と課題

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経済成長を否定しようとするのは、経済成長というものを間違って理解しているからではないか。人々が保有しているテレビやパソコンの台数が増えるという、いわば物量の拡大も経済成長の1つの姿だ。しかし、これだけが経済成長ではなく、物量が増えることが経済成長に必須だというわけではない。より質の高い商品の生産が増え、質の悪い商品の生産量が減るということでも経済成長は起こる。

今まで存在しなかったような新商品が提供されることで、人々の生活は豊かになる。残念なことに実質GDPは、既存の製品の質の改善は何とか取り込めているといえるだろうが、新商品やサービスの誕生による人々の生活の改善は十分に記録できていない。より高級なタイプの商品が安く買えるようになったということであれば、価格の下落という形で実質値の伸びを記録できる。

人類の進歩が続くかぎり、現実社会の経済成長は続く

しかし、これまでなかった商品やサービスが登場したときに、どう評価するのかは相当難しい問題だ。そもそも新商品が登場しても生産量がある程度の量に達しなければ統計調査で新しい製品として独立して記録されるようにはならないので、実態を知ることすらできないだろう。新商品が発明されて販売されたことで生活が改善しても、実質GDPはそれを十分には反映できていないはずである。

人類の自然界に関する理解は、まだまだ不完全なものだ。これからも、さまざまな発見が行われ、まだわれわれが知らない自然界の法則を使った想像もつかないようなものが発明されるだろう。それがその時代の人々の生活を改善するようなものであれば、原理的にはGDPに反映されるようになるはずだ。人々が欲しいと思っているような商品やサービスが販売されるようになれば、生活は改善する。仮にさまざまな問題から統計として発表されるGDPに反映されないということがあったとしても、人類の進歩が続くかぎり現実社会の経済成長は続くのである。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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