GDPには「売春」もカウントしていいのか 「経済成長を図る物差し」GDPの限界と課題

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このように、GDPに何をカウントするかということが変わるのはおかしいと思うかもしれないが、社会が変わって人々の価値判断が変われば、何が意味のある経済活動かということも変わってしまうのは仕方がない。

たとえば、麻薬のように法律で禁止されているような物やサービスが生産されても、それは社会を豊かにしないはずだからGDPに計上されないのは当たり前のように見える。しかし、何が法律で禁止すべきものなのかという価値判断は社会によって異なり、時代によって変化している。

たとえば、オランダでは売春は合法であり、日本で禁止されている薬物も一部は合法だ。こうした各国の考え方の違いは、さまざまな問題を引き起こしている。EUは加盟各国の負担金をGDPの規模に応じて決めているため、不公平にならないように2014年に各国のGDPの計算方法を統一した。その際にオランダなどに合わせて売春や麻薬の一部もGDPに含めることにしたため、こうしたものが違法な英国やイタリアでは、大騒ぎになってしまった。

現代のわれわれが「大きな変化」に気づいていないだけ?

GDPは、このように本質的にさまざまな問題を抱えている。しかし残念ながら、これに代わるような総合的な経済指標をつくることはまず無理で、われわれはGDPの限界や問題点をよく理解したうえで利用するしかない。

日本だけでなく、世界経済全体が経済成長のエンジンを失いつつあるので、経済成長は望めないという意見もある。人類の歴史の中でも、英国で産業革命が起こって以降、200年ほどは世界の成長が目覚ましかったことは確かだ。ノースウェスタン大学のロバート・J・ゴードン教授は著書『The Rise and Fall of American Growth』(2016年)の中で、米国経済の歴史を詳細に検討したうえで「1970年ごろ以降はそれ以前のような勢いではわれわれの生活を豊かにするような新製品が生まれなくなった」としている。

しかし一方で、これからの科学技術の急速な変化に社会が付いていけないのではないかということも懸念されている。AI(人工知能)の囲碁ソフトが世界のトッププロを敗ったのは記憶に新しい。今の技術はまたどこかで壁に突き当たるはずだが、何度か壁を乗り越えることで、いずれ人間の能力をはるかに超えるようになるだろう。

たとえば自動車の発明ということはもう二度と起こらないのだが、自分で運転しなくても行きたいところに行けるようになるという自動運転技術は、今まさに生まれようとしている。発明される商品が手で触れるモノではなくて、目に見えない技術というサービスになったため、われわれに大きな変化が起こっていることを理解しにくくなっているだけなのではないだろうか。

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