「調身、調息、調心」と、メジャートーナメント コースセッティングは、仏教に通じるものがある

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メジャートーナメントが、なぜいつもスリリングな緊迫したゲームで面白いのか。4月のマスターズにしても、終わったばかりの6月の全米オープンにしても、さらにいえば、これから始まる7月の全英オープン、8月の全米プロにしても、白熱した戦いに見ている者ですら没入してしまう。

いわば観戦者が選手たちと同じようなゾーンに入ってしまう連帯感すらある。

確かに、歴史や伝統という、時代を築き上げた名手たちの足跡の積み重ねもあるだろう。そして、トーナメントとして、その哲学を踏襲し、さらに進化させて良き変容を惜しまない。

昨年のオリンピッククラブでの全米オープンのときに感じたことがある。進化するゴルフボールやクラブ、スイング、身体能力で飛距離が伸びて、一時期、それに合わせてコース全長も伸ばし続けた。しかし昨年の全米オープンでは、距離を伸ばすだけの着想でコースセッティングしていなかった。もちろん、中には史上最長ホールの16番ホール、670ヤード、パー5もあったけれど、競技最終日の日曜日、このホールのティーグラウンドは、約100メートル前方に設定。さらに15番ホール、154ヤード、パー3は、第3ラウンドで実測107ヤードに設定。そのうえ、10番ホール、パー4は、280ヤードという短い距離の設定もあった。この柔軟性のあるセッティングは、あくまでも優勝スコアを理想的なイーブンパーにするという主催側の全米ゴルフ協会の叡智の具現化だと思う。

つまりは、各ホールの距離で、進化する飛距離だけに対応するのではなく、18ホール全体像を俯瞰して、どういうゴルフゲームの展開にしようかという発想だ。ゴルフは、1打1打の積み重ね。ミスショットにしてもナイスショットにしても、やり直しが利かない。4ラウンド72ホールのスコアを選手たちが、それぞれどうデザインし、脚本を書き、書き直しながら創り上げていくか。そのときに問われる、選手自身の技量、球筋、技巧、コースデザインの理解度、体調などを、どうやって調和させゲームリズムを作っていくか、スコアメークしていくかだと思う。

つまりは、舞台が洗練されていればいるほど、選手たちは、そのポテンシャルをフルに発揮し、さらに信じられない1打をも生むわけだ。

仏教用語に「調身、調息、調心」という言葉があるけれど、まさに選手とコース、技量とコースと自分自身が整って、心穏やかに72ホール戦い続ければ勝利者になりますよ、というコースセッティングのすばらしさが際立つ。

したがって、メジャートーナメントでは、凡戦というキーワードは、存在しない。もともと秀逸なポテンシャルを秘めたコースデザインと、それを磨き上げるセッティングと、そこで戦う選手たちの叡智の結実が1打ごとに見て取れるから、観戦者もまたゾーンに入れるのだろう。

三田村 昌鳳 ゴルフジャーナリスト

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みたむら しょうほう

1949年生まれ。大学卒業後、『週刊アサヒゴルフ』副編集長を経て、77年にスポーツ編集プロダクション(株)S&Aプランニングを設立。日本ゴルフ協会(JGA)オフィシャルライター、日本プロゴルフ協会(JPGA)理事。逗子・法勝寺の住職も務める。

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