「学会で評価されることばかりに気を取られている男性研究者と比べると、私は自由で面白いテーマの研究ができていると思っています。それだけに論文を発表したりするとやっかみ交じりの批判を浴びやすいんです。精神を安定させるために彼の存在は必要なのだと感じるようになりました。自分の何が悪かったのかと自責ループにはまりそうになるたびに、まったく違う視点の問題提起をして私の気をそらしてくれます。おかげで毎回リセットできる。彼のそんなところがたいへん気に入っています」
「格上男性に頼らなくても、生きていける」
省吾さんに押し切られる形での結婚ではなくて良かった、と筆者は思う。結婚をする心の準備ができる年齢は人それぞれであり、われわれ「晩婚さん」は遅咲きなのだ。無理に咲こうとすると花びらが散ってしまう。
能力も志も高い真理子さん。金融機関では居場所を見つけられなかったが、努力を重ねて研究者としての基盤を築きつつある。そのときに「必要」だと実感したのが省吾さんなのだ。この結婚にはうそがない。
覚悟さえできれば、母親の説得などは容易だった。翌年には41歳になるという自分の年齢を改めて伝えつつ、「格上の男性に頼らなくても、ちゃんとした人生を送れる自信がちょっとだけついた。私単体でも研究者としていいところまでいくかもしれない」と説明したのだ。母の焦りと納得感を同時に引き出す作戦である。
ほれ込んだ女性とようやく結婚することができた省吾さん。料理だけは真理子さんが担当し、ほかの家事はすべて省吾さんが率先してやってくれる。2人が交際を始めた記念日まで覚えており、すっかり忘れている真理子さんを驚かせてくれている。
「彼は毎日がすごく楽しそうで、結婚生活に安心しきっているようです。お弁当を作ってあげるとうれしそうに会社に持って行っています」
母の教えどおりに「格上」の男性から愛され、なおかつ「対等」な関係を構築する。この難しい目標を真理子さんはどのように達成したのだろうか。または達成できなかったのか。
「学歴や職業に関して、私自身は格上とか格下などと考えたことはありません。母はその点はあきらめたみたいです。ただし、能力に関しては勝ち負けみたいなものは少し気になります。夫によれば、頭の回転は私よりも彼のほうが勝っているけれど、独創性では私のほうが優れているみたいです。その意味では私たちは対等なのだと思います」
社会人の男女がお互いの短所を補い合い、長所は大いに伸ばすことで、安心安全で自由な生活を手にすることが結婚の意義だと思う。そのためには「尊敬する相手と暮らせている」と感じる謙虚さと、何でも忌憚(きたん)なく話し合える関係性を保つことが不可欠である。表面的な意味での「平等な友達夫婦」とは違う。夫は妻にほれ込み、妻は夫に感謝する。非対称な関係でも、対等で幸せな夫婦は実現するのだ。省吾さんから片思いをされ続ける真理子さんには、気持ちのゆとりのようなものを感じた。
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