ちなみに、米国の貿易統計を見ると対メキシコへの輸入比率は全体の13.1%(2015年、みずほ総合研究所「トランプ・ショックとメキシコ」より、以下同)、対して輸出比率は全体の15.7%となっている。つまり、米国経済にとっては「NAFTA見直し」は、メキシコよりもダメージが高いと考えられている。
トランプ大統領はこうした事実をわかっていても、自分の人気を維持するためにはメキシコに対して関税、もしくは国境税をかけて「人気取り」に動くはずだ。その政策の整合性や成否は問題ではない。大統領としてのパフォーマンスがすべてなのだ。これまでの常識がまったく通用しない。それが、ポピュリズム政治であり、トランプ政権だと思ったほうがいいだろう。
そもそもトランプ大統領は、雇用をつくると盛んにアピールしているが、イエレンFRB議長が指摘しているように、米国はもはや「完全雇用」に近い状況だ。これ以上の雇用創出は人手不足を生み、人件費の高騰を生み、ひいては消費者物価の上昇を招く可能性もある。
また、選挙中からひたすら強調していた「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の問題は、工業用ロボットやAI(人工頭脳)といった技術革新(イノベーション)の側面も強く、工場の海外移転だけが原因ではない。
新政権は、そのほかにも法人税や所得税を引き下げて大型減税を実施。さらにインフラ整備や軍事増強のための財政出動などによって意図的なバブルを形成しようと試みている。言い換えれば、雇用創出もまたシナリオどおりなのかもしれない。
いずれにしても、トランプ政権の経済政策に理論は通用しない。なぜなら理論などないからだ。行き当たりばったりで、目についたものを指摘して、反応がよければ実施する。そういう意味では、繰り返し指摘してきた日本に対する「貿易不均衡」「駐留米軍の費用負担増」「日米安保条約見直し」は、何らかの形で必ずアクションを起こしてくると見たほうがよさそうだ。
TPP離脱の次に待ち受ける過酷な「日米FTA」
このうち日本経済に大きな影響を与えそうなのが、トランプ大統領の主張する「貿易不均衡」の問題だろう。確かに、日本は長年にわたって対米貿易では、中国ほどではないにしても貿易黒字を積み重ねてきた。トランプ大統領にはこれが我慢ならないようだ。
トランプ政権がどうやって日本との貿易不均衡の解消に動くか。TPP離脱を表明した以上、次に米国が打ち出してくるのは、日本と米国のFTA(自由貿易協定)と考えられる。
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