分断とねじれ、トランプの米国はどこへ行く "正統性"や支持率なき船出、その向かう先

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トランプ政権で非常に奇妙なツイスト(ねじれ)が生じつつある。トランプ大統領は反自由貿易の立場を取る。だが、共和党は伝統的に自由貿易を推進してきた。新自由主義が共和党の政策基本である。NAFTAを支持したのは共和党議員であり、TPPを推進したのも共和党議員であり、彼らのスポンサーである企業である。その共和党が、トランプ大統領の反自由貿易政策をそのまま受け入れるのであろうか。

トランプ政権の閣僚の中には、自由貿易派は多い。国家経済会議のゲイリー・コーン委員長(前ゴールドマン・サックスのCOO)やレックス・ティラーソン国務長官(前エクソン・モービル会長)などのビジネス界出身者は総じて自由貿易論者である。また、テリー・ブランスタッド駐中国大使も自由貿易論者と見られている。

共和党は反対?民主党が支持?

奇妙なことに、トランプ大統領の保護主義政策を熱狂的に支持しているのが、民主党と労働組合である。1月2日に9人の民主党下院議員とAFL-CIO(米労働総同盟・産業別組合会議)が共同記者会見を開いた。その席でリチャード・トランカ会議委員長は「アメリカの労働者のために経済を正しい方向に導くためには貿易のルールを書き換えることが必要である」とNAFTAの再交渉の必要性を訴え、「私たちはトランプ氏にこの問題で私たちが協力することを知って欲しい」と、トランプ大統領に極めて好意的なメッセージを送っている。民主党の大統領予備選挙でヒラリー・クリントン候補と競い合ったバーニー・サンダース上院議員もNAFTAの再交渉の必要性を訴えている。

通商問題だけではない。大規模なインフラ投資に関しても、民主党幹部はもろ手を挙げてトランプ大統領と協力できると語っている。だが、共和党主流派は巨額のインフラ投資を必ずしも支持していない。対中国政策も共和党で現実主義を唱える主流派には"一つの中国政策"の転換は受け入れがたいだろう。むしろトランプ大統領は、ここでも民主党と立場は近いかもしれない。

オバマケア問題、減税問題、安全保障問題、メキシコとの国境に壁を作る案、最高裁判事の指名と、これから難しい問題が出てくる。議会は共和党が両院の多数を占めているとはいえ、上院は52対48と僅差である。共和党内から反乱が起これば、トランプ政権の政策は頓挫しかねない。果たしてトランプ大統領がどう現実的に対応するか興味あるところだ。
 

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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