荒廃する生活保護行政 機械的な給付抑制で病院通いに支障も

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荒廃する生活保護行政 機械的な給付抑制で病院通いに支障も

生活保護を受けている人が、病院などに通う際に支給されている交通費(通院移送費)。厚生労働省が出した4月1日付の通知をきっかけに、全国各地の自治体で通院移送費の支給打ち切りが相次いだ。その後、保護受給者や支援団体の強い抗議、与野党議員の働きかけを受けて、舛添要一・厚生労働相が6月10日に通知の「事実上の撤回」を表明。「必要な医療が受けられなくなることはあってはならない」とする新たな通知が出たことで、7月1日からの通知の本格実施を目前に、多くの人が病院に通えなくなる事態は回避される見通しだ。

だが、「原則不支給」とも読める4月1日の通知そのものは廃止されていないうえ、「交通費の負担が高額になる場合」などに支給要件を限ったことは今後に火種を残している。

「4月1日の通知が残ったことで、新たな申請に対して給付を渋る自治体が出てくる可能性が高い。厚労省は実はそこを狙ったのではないか」と、東京都内の福祉事務所に勤務するベテラン職員は指摘する。

少額の交通費給付も制限

厚労省は同じ4月1日付でジェネリック医薬品(特許切れの先発医薬品と同等の品質・効能を持つとされる安価な「後発医薬品」)の使用についても通知を出した。生活保護受給者に、後発医薬品の使用を義務づけたのだ。そして、福祉事務所の指導や指示に従わない人に対しては、「保護の変更・停止・廃止を検討する」という一文を盛り込んだ。

だが、後発医薬品の使用を強制する通知が行き過ぎであることを厚労省は認めざるをえなくなり、同通知はわずか1カ月で廃止された。その一方で、通院移送費に関する通知は廃止されずに残った。

通院移送費の支給額は2006年度で43億8600万円。生活保護給付総額約2兆6333億円の0・16%、生活保護の医療費(医療扶助)に占める割合も0・3%程度にすぎない。というのも、制度の存在が保護受給者に知らされていなかったり、高額の場合に限って支給する自治体があるなど、制度の運用にバラツキがあるためだ。しかし、電車やバスで病院に通院せざるをえない保護受給者にとっては命綱だ。

そもそも通院移送費がクローズアップされたのは、北海道滝川市で暴力団関係者が2年で総額2億3000万円も不正受給していた実態が発覚したことだった。事件をきっかけに厚労省は支給の適正化に乗り出した。ところが、「高額」給付に目を光らせるべきところを、厚労省は4月1日の通知で、わずかな金額を含めて規制した。給付実態の調査も終わらないうちに、機械的に給付を絞ろうとしたのである。

厚労省は給付の範囲を「へき地等により、最寄りの医療機関に電車・バス等により受診する場合であっても交通費の負担が高額になる場合」などに限定した。しかし、「へき地等」の「等」の意味が不鮮明なうえに、厚労省が「高額」の基準を示さなかったことが混乱を増幅した。4月から給付を打ち切った自治体が出てきたうえ、多くの自治体は「7月以降、給付できない可能性が高い」と受給者に伝えていた。そして、打ち切り方針を聞いて通院回数を減らす人も相次いだ。

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