通商政策では、TPP(環太平洋経済連携協定)を推進したオバマ政権とは反対に、トランプ新政権では、TPPから離脱し、既に発効しているNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を開始しようとしている。米国の自動車研究センターは、NAFTAが見直されてメキシコからの自動車の輸入に米国が35%の関税をかけた場合、逆に米国内の雇用が減るとの試算を出している。高い関税により、米国で新車の価格が値上がりして、自動車の販売台数が減り、メキシコからの自動車の輸入が減るのに伴い、メキシコにある工場向けに出荷する米国の部品メーカーの生産も減ることなどから、米国内の雇用が減るとみているのである。
保護主義的な政策で、自国の雇用を維持・拡大できると思いきや、逆に雇用が減っては、公約は実現できない。
そうなると、むしろ、米国製の商品を外国に売る販路を開拓できなければ、米国内の雇用を維持できない可能性が高い。そう考えれば、米国内の雇用維持に直接的に介入するだけがトランプ政権の政策スタンスかといえば、そうではなく、対外的には自由貿易を求めるスタンスで臨むこともありうる。特に対米貿易不均衡が顕著な国に対して、米国からの輸入を増やすよう圧力をかけてくる可能性も、論理的には考えられる。
日米貿易摩擦の時代の再来か
これは、いつか見た光景である。それは、1980年代から1990年代にかけての日米貿易摩擦のときの米国政府の対応だ。つまり、日本側としては、既に経験済みのことである。当時の対応の良し悪しはともかく、仮に今後トランプ新政権が米国からの輸入促進を日本側に求めてきたとしても、それにどう対応するかを過去の歴史に学ぶことは十分に可能だ。
貿易不均衡を、為替レートで調整することも、既に経験済みである。1985年のプラザ合意などが典型例だ。だが、為替レートの調整だけで貿易不均衡が是正できなかったことを、論理も歴史も示している。さらに論理的には、貿易不均衡だけを取り上げて、貿易黒字だから勝ち、貿易赤字だから負け、であるかのように捉える見方は誤っているといえる。一時的に貿易赤字だからといって国内の雇用が減るわけではないし、国民の効用(満足度)が低下するとは限らない。
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