「日本女性の生産性の低さ」には原因がある 「育児支援」を主体にする日本企業のナゾ

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友人に官公庁の上級管理職がいます。彼女は2人の子どもを育てながら、試験を受け昇進を続けてきました。彼女の働いている組織は女性の管理職が多く、日本企業の平均の倍くらいです。彼女がここまできたのは「あなた、昇進試験受けるよね?」と当たり前のように勧めてくれる男性上司がいたから、と彼女は言います。女性の部下は遠慮して試験を受けないことが多いので「受けて!」と励まし、背中を押すことを個人的なミッションと考えているそうです。

経営者などに伝えたい4つのポイント

最後に、女性活用にまじめに取り組みたい組織はどうしたらいいのか、ポイントをまとめます。

第一に、採用コストを明確に意識することです。特に、同程度の教育を受けた男性社員と女性社員が、5年、10年、20年後に、どういう状況にあるか、調べてみてほしいのです。家庭に入った、と思っていた女性社員が、実は同業他社に移っていたり、よりチャンスの大きなベンチャー企業に移っていたりしないでしょうか。その場合、自社がかけた採用と育成コストを取られた形になりますが、構わないのでしょうか。

第二に、男性と同程度の能力がある女性に、やさしい仕事しか与えないことの機会損失を考えていただきたい。目に見えにくいですが、測れないものではありません。

たとえば自社所有の土地が「遊んでいる」状態だったら、年間、何億円の損と見積もるでしょう。何十人、何百人、もしくは何千人もの女性社員が、持っている能力を発揮せずに、簡単な仕事をしている状況を直視してほしいのです。それは、例えていえば、最新のパソコンがあるのにインターネットをいっさい使わずに仕事をしているような状態です。そんな無駄を放置する余裕が、あるのでしょうか。

第三に、もし、これまで女性を無駄遣いしてきたことに気づいたら。まず、今いる女性社員にもっと難しく、もっと収益性の高い仕事を任せてほしいです。ある大企業は、合併と事務作業のIT化により、女性事務職が大量に余ってしまいました。

こういう時、解雇せずに違う仕事を与えるのは、日本企業の良いところだと思います。この企業は元事務職の女性を営業に出してみました。すると「思ったよりずっと営業成績が良かったので、やる気のある女性にもっと仕事を任せたい。我が社の中期経営計画にジェンダーの項目を入れるべき」と本社部長が話していたのが数年前。今、この企業はトップも女性活躍をうたい文句にしています。

第四に、女性が難しい仕事をやりたがらないのは、長年蓄積された、男性とは異なる扱いの結果である、という認識を持ってほしいのです。よく女性は上に上がりたがらない、と言われますが、本当に、そうなのでしょうか。モチベーションは個人の特性であると同時に、環境要因で後天的に獲得することができるものです。そのことを、私自身が冒頭記したように、身をもって感じています。

アトキンソン氏の書かれた、大事なのは企業側の仕事の与え方と女性個人の覚悟の両方という主張に、全面的に賛成します。もし、少しでも共感いただけるなら、明日からあなたの女性の部下や後輩への接し方を少し変えてみてほしいです。それが、5年後、10年後に彼女の働く意識を変え、企業の収益性も大きく変えるでしょう。
 

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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