「日本女性の生産性の低さ」には原因がある 「育児支援」を主体にする日本企業のナゾ

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それでは次に、アトキンソン氏の記事タイトルになっている日本の働く「女性の生産性」について、考えてみましょう。日本女性の生産性は本当に低いのでしょうか?

残念ながら答えはイエスです。現実を見るため、データを見てみましょう。立命館大学の筒井淳也教授の研究によれば、女性の雇用セクター別職業構成は、日本とほかの先進諸国で大きな違いがあります。

日本女性とアメリカ女性の大きな違い

たとえば民間企業における日本女性の仕事の特徴は、事務職(30.85%)とサービス・販売(30.45%)が多いことです。一方、アメリカ女性の場合は、事務職(19.34%)、サービス・販売(16.36%)程度しかしません。また、管理職(14.62%)や専門職(16.95%)など、収入や生産性が高い職種に就く女性も多くいるのが日本女性との大きな違いです。

スウェーデンの場合、アメリカより事務職(17.17%)の比率が低いことに加え専門性が必要となる技術職(21.27%)に就く女性が多いのが特徴です(詳しく知りたい方は『仕事と家族』(中公新書、2015年)16ページに、より詳しい分析とともに記載されています)

実は仕事と家庭の両立という意味では、アメリカのほうが法整備は遅れています。アメリカには全国レベルで有給の産休育休制度はありません。アメリカで女性労働やワークライフバランスに関する研究者、政策提言をする人は、ずっと前から求めてきましたが、いまだに実現していません。

そんなアメリカでは、日本よりずっと女性活用が進み、管理職の半分を女性が占めるまでになっているのはなぜでしょうか。ここで大事なのが、アトキンソン氏が指摘した、生産性の高い仕事に女性が就いているという事実です。

ひとことで言えば、アメリカの多くの組織は日本に比べて、性別や人種によらない能力発揮や均等待遇を重視しています。女性労働者についても、「育児支援より能力発揮の支援」が優先されている、と言えます。

私は10年前に、アメリカに1年滞在し、共働き夫婦の家事育児分担について調査しました。留学前に日本の出版社で社員記者として働いていた私は、日本企業で働く女性とその支援について、よく取材をしていました。日本で多くの企業がアピールしていたのは、手厚い育児支援、特に法律が保障するより長い育児休業だったことを覚えています。一方で「優秀な女性に頑張ってほしい」という企業が、実際にやっていたのは「優秀な女性をできるだけ長く休ませること」であり、矛盾を感じてきました。

ひるがえってアメリカでは、能力が発揮できる仕事のやり方を提供する、という発想でした。専門職・管理職で子育て中の男女50人以上にインタビューをしたところ、彼・彼女たちが話すのは、フレックスな働き方に関することばかり。在宅勤務でも集中できるオフィススペースを作って、週1回だけ出勤する大手企業の部長(女性)、完全在宅で海外の同僚と連絡を取りつつ毎日12時間労働ながら家事は妻と半々にシェアする管理職(男性)に会いました。

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